五代目江戸家猫八襲名披露興行大初日
鈴本演芸場で五代目江戸家猫八襲名披露興行大初日を観ました。待ちに待った、新しい猫八が誕生した。二代目江戸家小猫改め五代目江戸家猫八である。きょう、3月21日は四代目の命日でもある。そして、何でも天赦日、一粒万倍日、寅の日が重なるという一年に数回しかない幸運の日だそうだ。兎に角、めでたいのである。
本名、岡田真一郎は1977年生まれの45歳。2009年に父親である四代目江戸家猫八に入門し、2011年に二代目江戸家小猫を襲名。2012年に落語協会に入会した。その後の活躍は目覚ましく、2017年花形演芸大賞銀賞、18年金賞、19年大賞と連続受賞という快挙を達成した。
2016年に四代目が66歳という若さで早逝。曽祖父、祖父、父と続く猫八の名跡を7年ぶりに復活させた。三代目が生前、88歳になったら自分が八十八を名乗り、息子に猫八を譲るつもりだと言っていたから、四代目はそのタイミングを待ち(三代目は80歳で亡くなったが)、還暦になっての襲名だった。
今回、猫八を襲名した五代目は、「まだ45歳で…」という思いも微かにあったが、落語協会や各寄席、そして贔屓筋からの期待も大きく、今回の襲名に至ったわけだ。きょうの高座の上手に五代目の招木を挟む形で三代目と四代目の招木が立て掛けられていたのが印象的だった。
五代目は全国の動物園を廻って、飼育員さんと仲良くなるくらい、研究熱心で、新しいレパートリーをどんどん増やしていった努力の人でもある。だから、高座の下手には「動物園水族館の仲間たちより」という札が掲げられた豪華な花が飾られ、後ろ幕は元旭山動物園飼育員で、絵本作家のあべ弘士さんが描いた、掌にウグイスがのっているゴリラの絵になっている。
「狸の鯉」柳亭市若/奇術 ダーク広和/「親子酒」三遊亭歌司/「つる」柳家花緑/漫才 米粒写経/「楽屋外伝」鈴々舎馬風/「締め込み」柳家さん喬/浮世節 立花家橘之助/「銭湯の節」柳家喬太郎/中入り/壽襲名披露口上/太神楽曲芸 鏡味仙三郎・仙成/「湯屋番」林家たい平/紙切り 林家正楽/「長屋の花見」柳亭市馬/ものまね 江戸家猫八
口上は、下手から喬太郎、花緑、たい平、橘之助、猫八、正楽、さん喬、市馬、馬風。司会の喬太郎師匠が膝が悪いために釈台を前に置いて座っていたので、「まるで大喜利みたい!」と笑点メンバーのたい平師匠からツッコミが入るのが可笑しい。
喬太郎師匠が、この人の芸、人柄を嫌いな人は誰一人としていない、涙が出るほど嬉しいとおっしゃっていたが、これはお世辞でも何でもなく、本心から出た言葉だと思う。花緑師匠は、身内に師匠を持つプレッシャーがあったろう、でも代々の江戸家が鳴かなかった動物をネタにして、芸を進化させている素晴らしさを讃えた。
たい平師匠は、四代目に「元気?頑張っている?」とよく声を掛けてもらった、五代目の芸は子供たちにも人気があり、その子供たちが大人になって寄席に足を運んでくれて、「俺、小猫のときを知っている」と誇りに思ってもらえる芸人だと賞賛した。
橘之助師匠は、本来色物は口上には上がらないものだが、本人たっての希望もあったので、と前置きして、先代の圓歌が三代目に「四代目の口上をやってやる」と約束して実現した、それで「五代目も…」と言っていたが叶わなかったのが残念だと語った。
正楽師匠は、「(五代目の)猫八さんより、ちょっとだけ先輩なだけ」と謙遜し、この人の芸は必ず受ける、私の芸はあまり受けない、羨ましいとおっしゃっていた。いえいえ、正楽師匠は名人です!さん喬師匠は、(五代目の)芸の得なところは、聞いたことのない動物の鳴き声をやって、納得させてしまうところだと言って、時代遅れの芸のようで、どんどん時代を先取りして、お客様を取り込んでいる凄さがあると評価していた。
馬風師匠は、お笑い三人組で売れた三代目が寄席に入るときに、小さん一門になったので、兄弟弟子に当たる。四代目は気配りのできる、役者にしてもいいような、いい男だった。そして五代目は地球の果てまで行く勉強熱心と讃え、教わったというネコの鳴きまねを披露。場内、大受け!
市馬師匠は、四代目が亡くなったときのことを振り返り、真打昇進披露の大初日だったので、訃報を千秋楽まで伏せていた、そんな気配りの人だった。その四代目から「真一郎を立派な五代目にしてくれ」と言われ、堅く約束したと涙を溜めながら話していた。
五代目猫八師匠の高座は、江戸家伝統の初春のウグイスからはじまった。綺麗な指笛の音が場内に響く。そして、馬風師匠に教えたというネコの鳴き方を客席に伝授。一番高い声を出して、それをひっくり返し、舌で巻き取る。帰宅してから、やってみたけど、そんなに簡単にはいかないよお。
イヌ、とりわけチワワはおめでたいと言って、連続で鳴いて三本締めになる。アルパカは「人の話を聞いているようで、聞いていない人」の返事。カバは父親である四代目の「カバァー」には叶わないとリスペクトも。
フクロテナガザルの「両足が同時に攣ったときのオジサンの叫び」の喩えも巧いなあ。そして、十八番のヌー。質問を断っているヌーというのが可笑しい。そして、WBCで話題のヌートバーを絡めたギャグに爆笑。
高座の締めで、「この日を人生最良の日にするつもりはありません。お客様に、しっかりと応援して頂き、ヌーと言われないように精進します」と決意表明したのが、生真面目な五代目らしくて、感動してしまった。