神田松鯉「天保六花撰 松江侯玄関先」、そして集まれ!信楽村

国立演芸場三月中席千穐楽に行きました。きょうは講談が4席も聴けた。まずは前座、伯山先生の二番弟子の青之丞さんが谷風と雷電の師弟関係を読み、続いて、壽二ツ目昇進の鯉花さんはお花と伝助の恋物語を描き、食いつきで、阿久鯉先生が多賀朝湖と宝井其角の友情を語った。そして、主任の松鯉先生の河内山宗俊の大胆不敵なダークヒーローぶりに痺れた。

「雷電の初土俵」神田青之丞/「大名花屋」神田鯉花/「悋気の独楽」三遊亭遊雀/漫談 新山真理/「ハワイの雪(上)」桂小南/中入り/「浅妻船」神田阿久鯉/「お見立て」春風亭柳橋/音曲 桂小すみ/「天保六花撰 松江侯玄関先」神田松鯉

松鯉先生は10日間、毎日ネタを変えて主任を勤めた。①五平菩薩②秋色桜③無筆の出世④殿中松の廊下⑤徳利の別れ⑥男の花道⑦出世の高松⑧雁風呂由来⑨大高源吾⑩松江侯玄関先。さすがである。僕はそのうち、5日間通い、人間国宝の名人芸を堪能させていただいた。ありがとうございました。

きょうの高座は、河内山宗俊の度胸というか、肝の座り方が一番の聴きどころだろう。俺は天下の河内山だ!と堂々としている。まず、上州屋に行って、自分の名札を出し、これで50両を貸せという自信が凄い。数寄屋坊主がどれだけの力を持っていたか知らないが、それだけでハッタリをかますことができるのだから。

そして、上州屋主人彦右衛門の依頼を受けて、娘おなみを救出するために、上野寛永寺の法被を着て、駕籠に乗り、僧侶・道海を名乗って、宮家の使者になりすますのは余ほどの度胸がないとできないだろう。この迫力に雲州松江18万6千石の松平出羽守が騙されてしまうのも、わかるような気がする。

ただ度胸がいいだけじゃない。ちゃんと作り話を用意して、相手を納得させてしまう詐欺師の術も心得ている。宮様が囲碁仲間である上州屋を哀れに思い、おなみを返せと直々の要求であるという筋書きは、なるほど騙されそうだ。

最後に北村大膳に見破られたときの、開き直りも見事だ。俺は天下の御家人。大公儀での取り調べで、あることないこと並べて喋れば、松平出羽守の立場も危うくなるぞ、と脅すテクニックもちゃんと身に付いている。いわば、知能犯なのだ。

腰元奉公している浪路ことおなみを側妻にしようとして、それを拒まれると座敷牢に閉じ込めて、宿下がりを許さないという出羽守のあくどさを懲らしめるという意味において、河内山は正義の味方とも言える。ダークヒーローの活躍に拍手喝采してしまう、カッコ良さがこの読み物の魅力だと改めて思った。

夜は高田馬場に移動して、集まれ!信楽村に行きました。「長屋の花見」「告白」「徂徠豆腐」の三席。「長屋の花見」は午前中に教えて頂いた師匠のところで「アゲ」の稽古を終えたばかりの、ホヤホヤのネタ卸し。この勉強会ならではの醍醐味だ。教わった通り、素直にいじらずに演じたので、30分ほどあったが、教えてくれた師匠は「全部やるとダレるよ」とアドバイスしてくれたそうだ。今後、信楽さんがどのようにご自分のカラーを出していくか、楽しみだ。

「告白」は自作の新作。兎に角、笑った!放課後、男子が女子を屋上に呼び出し、「バスケ部のイワナガと付き合っているのか?」とか、「サッカー部のセキカワのことが好きだろう?」と質問するので、てっきり、この男子はこの女子のことが好きで、付き合ってくれと告白するのだろうと思ったが…。

「俺、巨人が好きなんだ。読売ジャイアンツ」。どっひゃ―!すると、女子が「私も好きよ、巨人」。挙句の果てに、好きな選手は「松井」「桑田」。現役選手じゃないんだ!「現役では?」「岡本」「俺も」「岡本しか知らない」。とってもポップな会話が展開する。

で、女子が「それなら、付き合ってもいいわ」となり、さらには「キスをしよう!」となる…。滅茶苦茶ポップじゃん!でも、イケメンのセキカワは好きだし、イワナガとは付き合っているという。都合八股かけていると。「さっきのは嘘!」。会話の展開が何だかとても破天荒で愉しい新作落語に出会った。

「徂徠豆腐」は、今まで色々な噺家さんで聴いてきたが、こんなに笑いの多い「徂徠豆腐」は初めてだ。学者先生が豆腐二丁を求め、皿に乗った豆腐を口に流し込む擬音と仕草。上総屋吉兵衛の家が火事になったときに、10両を届けに来た大工の口癖の「チョイ!」の連呼。これらによって、人情噺がコミカルに味付けされた。

いいな、と思ったのは、一文無しを白状したときに、上総屋が「商いをして稼げばいいじゃないですか」と言ったのに対する、学者先生の答え。商いをすれば、私一人、奉公人を使ってもせいぜい10~20人しか助からない。でも、学問を修めれば、何千人、何万人という人を救うことができる。なるほど。

それと、一文無し判明後は上総屋が毎日、豆腐とおからを無償で届けていたが、この行動を不審に思った上総屋女房が浮気を疑った。で、上総屋が事情を説明すると、「だったら、握り飯も持って行ってあげなさいよ」と提案。それで、学者先生も素直にその好意を受け入れて、嬉しそうに握り飯を食べるのが良いと思った。他の噺家さんで「握り飯を恵んでもらうと乞食になる」と拒否するパターンがよくあるが、“素直に受け入れる”方が人間的かも、と膝を打った。