玉川太福「青龍刀権次」通し口演
「玉川太福独演会 青龍刀権次通し口演全六席」に行きました。6席を1日で聴くのは初めてのことである。太福先生もそう言っていた。2021年に2日間に分けて3席ずつ、というのが木馬亭で開催されたが、僕はそれには行けなった。その年に、木馬亭月例独演会で第4話から第6話までを通しで聴いたのが最後である。
「青龍刀権次」は基は講談ネタである。講談では20話ほどあると言われている。それを浪曲化するにあたって、7席にまとめた。それも、4話以降は浪曲版オリジナルだそうだ。太福先生の師匠、玉川福太郎先生が得意としていたものを、引き継いだ。そのとき、第5話と第6話を一つにまとめ、太福先生が全6話にしたのだとか。
通しで聴いて感じたのは、一切のダレ場がないこと。そして、1本のサスペンスドラマを観ているような、一篇の推理小説を読んでいるような、そんな感覚を持ち、最後の大団円ですごくスッキリする。爽快感がある。素晴らしい。
第1話「発端」
青龍刀権次は俗名で、本名は高橋権次郎だ。兄が八丁堀の筆頭与力、高橋与一郎。権次は博奕で10両をもうけ、いい気分で吉原の馴染みの女郎のところに、16日間居続けした。そして、女房と子供のいる家に帰るが、すっからかんの権次は「これでは正月も迎えられない」と文句を言われ、追い出された。湯島の切通しを歩いていて、一人の侍が芸者を斬り殺す殺人現場を目撃。侍の後をつけ、雁鍋屋に入ったところを、捕まえて、100両強請る。今は持ち合わせがないので、明日、上野両大師のところで金を渡すと侍は約束する。それを信じて、権次は去る。そのとき、慶応元年12月27日。
第2話「召し捕り」
江戸が東京になり、元号も変わった明治5年。権次は7年の服役を終えて、娑婆に出た。というのも、侍の約束通りに上野両大師で待ち合わせしていたら、いきなり十手持ちに取り囲まれ、お縄となった。当の殺人犯の侍にはうまく逃げられてしまった。しかも、その侍の名前を権次は聞いていなかったのだ。痛恨!
権次は当てもないから、八百松という料理屋で皿洗いで働くことに。ある日、すっかり変わった東京の街を歩いていると、吉原の夜桜見物の一行に出くわす。その中に、あの侍がいた!銀縁眼鏡に金時計、口髭をたくわえた男。早速直談判すると、持ち合わせの10円札を2枚渡され、あとの3000円は、権次の仕事場の八百松に届けるという。権次は信じ、自分も吉原へ繰り込む。そして、お勘定をその10円札で払うと、暫くして警察官がやって来た。「この札はどうやって手に入れた?誰からもらった?」。何と、偽札だったのだ。そして、またもや、あの男の名前を訊くのを忘れていた!権次は市谷監獄に5年入ることになる。
第3話「爆烈お玉」
5年の刑期を終え、再び娑婆に出た権次。今度こそ、あの男を捜そうと、東京15区をくまなく歩く。と、ある日。須田町で馬車に乗った銀縁眼鏡に髭の男を発見!後をつけると、神保町の大きな屋敷に入って行った。尋ねる権次。「先生ですか?しばらくお待ちください」。待たされること、2時間。男が現われる。「よくも騙してくれたな!」と、7年と5年、合わせて12年、俺は牢に入れられていたんだと訴える。つかさず、金庫を渡す男。好きなだけ持っていきなさい、というが、また偽札だろうと疑う権次。すると、襖が開いて、盛りは過ぎたが美しい女が一人、現れた。手にはピストルを持ち、こちらに銃口を向ける。さあ、どうなる?
第4話「血染めのハンカチ」
東京百美人の一人、江川敏子がピストルで殺された。この事件を捜査している築地警察の高橋刑事。高橋与一郎の息子、つまりは権次の甥に当たる。二人の俥屋が居酒屋に入ってお喋りしているのを高橋刑事は聞いている。「あの美人殺しの犯人は女だと思うんだ」と片方の俥屋が話す。高橋刑事はその俥屋の後をつけ、事情聴取をする。
美人殺しが起きた11月11日。築地河岸の二階屋でピストルの音がした。そして、一人の女性が出てきた。その女性を俥に乗せて、麹町のうどん屋丸八の角で降ろしたという。そのとき、その女性が忘れ物をした。血で染まったハンカチ。俥屋は屑屋に売り払ったという。
高橋刑事はその屑屋の顔は覚えているだろう、日給50銭、10日分で5円渡すから、東京中を捜してくれと、その俥屋に頼む。俥屋の名前は有本仙吉。有本は東京15区をくまなく回って捜した。すると、三味線堀で聞き覚えのある「くずーい」の声。あの屑屋だ。売り払ったハンカチを買い戻す。血染めのハンカチには、城南女学校と刺繍がしてあった。
第5話「美人殺しの真相」
高橋刑事は、中山ミツという女性の家を訪ねた。沼津から出てきて、牛込に所帯を持ったが、子が幼くして死んでしまい、離縁もして、今は針を教えて生計を立てている。高橋が訊く。「横浜野毛に住む岡山よし子を知っているか?あなたは、その女の乳母をしていましたね?」。全ては調べがついていて、ミツに確認の作業をしたのだった。「その岡山よし子を、11月11日に起きた美人殺しの犯人として取り調べしているのです。江川敏子の殺人犯として」。
岡山よし子が動機をどうしても喋らない。その上、何も口にしない。このままでは飢え死にしてしまう。彼女はその覚悟のようだ、と高橋刑事は言う。そして、ミツに一芝居打ってほしいと依頼する。シナリオはこうだ。「あなたが死刑になるなら、私も死ぬ。私の乳を飲んで、あなたは鬼になった。だから私も責任を取る」と言って、ミツは懐にしのばせた剃刀を首に持っていく…。
岡山よし子が乳母のミツと3年ぶりの対面。シナリオの効果があり、よし子は胸に秘めていた思いを打ち明ける。13歳のときから父と二人暮らしだった。15歳のときに、父が後妻として、江川敏子を迎えた。丁度、私は女学校に入学するので、横浜から叔父の住む麹町に引っ越した。と、ある日。父が死んだと報せが来た。駆けつけ、野辺の送りを済ませ、学校の試験があるので、すぐに東京に戻った。
三十五日、財産分けだと言って、2万円を渡された。父の遺産は25万円あるはず。おかしい。江川敏子が残りを貰ったのか。そんなとき、父の親友だった宇津木正之助が現われ、「あなたのお父さんは、殺されたのだ。江川が財産目的でモルヒネで毒殺したのだ」と教えてくれた。そして、仇討をしてあげよう、と言って、11月11日に築地の二階屋に来るように言われた。行くと、宇津木は江川をピストルで銃殺した。あの、ハンカチの血はそのときの血です。真相がわかった。
第6話「大団円~権次の改心」
話は第3話の終わりに戻る。権次がずっと名前の判らなかった男の名前は、宇津木正之助。俗称、地雷也の正之助。ピストルの銃口を権次に向けていたのは、宇津木の女房、簑島玉枝。俗称、爆烈お玉。宇津木は権次に「25万円の財産家に目を付けた。一口乗らないか」と誘う。権次も素直に乗った。宇津木は牛込で森田馨と名乗って潜む。権次は大森の天龍院の偽坊主として潜伏する。
権次は思う。「この13年、自分の女房子はどうしているのだろう?」。ある日、一人の書生風の男が訪ねてきた。だが、権次はその男が女であることを見抜き、事情を訊く。女は語る。慶応元年12月27日に自分の父親が出て行って以来、会っていない。母は乳飲み子を抱え、食うに困って、御茶ノ水で身投げしようとした。そこを助けてくれたのが、横浜野毛に住む岡山様という財産家。お陰で、甘酒屋を開いて、生活をすることができた。その命の恩人の娘さんが、美人殺しの犯人になっているという。このことは、私の伯父である高橋与一郎の息子、つまりは従兄弟の高橋刑事から聞いた。
それで権次は合点がいった。さては、この女が我が子であったのか!自分の女房子を助けてくれた恩人を裏切るようなことを俺はしていた。悪党に加担しようとしていた俺は何という、大馬鹿モノなのか。権次、改心。
この一部始終を高橋刑事に物語り、高橋刑事もビックリ!ということで、第5話まで張り巡らされていた幾つもの伏線が、最終話で一気に回収され、大団円。
一大サスペンスドラマを観終わった爽快感!太福先生、ありがとうございました。