五代目江戸家猫八襲名直前スペシャルの会

国立演芸場で五代目江戸家猫八襲名直前スペシャルの会を開催しました。3月21日から江戸家小猫先生が猫八を襲名するので、小猫としては都内で最後の高座となる、前夜祭的な祝祭ムード満点の会として盛り上がりました。これも一重に出演者および、ご来場くださったお客様のお陰と感謝申し上げます。

「初天神」入船亭扇ぱい/「駆け込み寺」春風亭一花/漫才 ロケット団/「ごくごく」林家彦いち/中入り/ものまね 江戸家小猫/座談 小猫・彦いち・ロケット団・一花

この会に出演の皆さんは、小猫先生が是非一緒に!とお考えになった芸人さんばかり。前座の扇ぱいさんは、入門前にNHK福井放送局のアナウンサーという経歴があり、その時代に福井県小浜市で「真打競演」の公開収録があったときに、司会を務め、そのときに四代目猫八師匠と小猫さんが出演していたという縁があった。

一花さんはこの襲名披露興行の番頭の一人で、ちなみに番頭は5人いるが、その元締めの大番頭が夫である金原亭馬久さん。ロケット団先生は、同じ色物として披露興行の口上の後に食いつきとして出演することの多い仲間で、今回の猫八襲名でも、浅草演芸ホールで食いつきを勤める。

また、彦いち師匠は、猫八襲名が去年4月1日に公式にリリースされたときに、いの一番に「襲名に向けて何をやる?」と親身になって声を掛けてくれたことが小猫先生は忘れられないという。

江戸家猫八。小猫先生の曽祖父が初代、祖父が三代目、父親が四代目である。第2次世界大戦の頃、15年ほど、初代のお弟子さんが二代目を繋いでくれて、だから今回の小猫先生が五代目となる。

小猫先生が高座の冒頭でおっしゃっていた言葉が印象的だ。ものまね芸は音の芸、お客様の耳に心地よく響いて、楽しんでもらえることが一番と。だから、音の響きを非常に大切にしている。客席に音が吸い込まれるから、あまり大規模ホールには向いていない。寄席のような小屋が一番向いている。寄席芸人としての矜持みたいなものを感じた。

きょうの高座は25分。まず、江戸家の代名詞、初春のウグイスを鳴く。小猫先生は父親のウグイスを聴いてお客様の大きな拍手に感動し、跡を継ぎたいと思ったという。

続いて、犬。中でも、チワワの鳴き声はおめでたい、と。連続して鳴くと、三本締めになりますと言って披露。なるほど!さらに、羊と山羊の鳴き比べ。前者は野太く低い声でいい加減に叫ぶ。後者は高めに震えるように鳴く。「やる気の違いです」と表現するのが可笑しい。

フクロテナガザル。これは、動物園に何度も足を運んで、時間を割いて研究した鳴き声だ。最後の叫び。両方の足が同時に攣ってしまったときのオジサンの声という喩えがユニークだ。まさか、初代は曾孫が120年後にフクロテナガザルの鳴きまねをしているとは夢にも思わなかったでしょう、と。感慨深い。

父、四代目のリスペクトも感じた。あるイベントでリクエストに応えて鳴きまねをしたとき、子供が「カバ!」と注文した。戸惑うんじゃないか、と思ったが、父は堂々と「カバァー」と鳴いた。その後、動物園を回って本当のカバの鳴き声を研究して鳴いた。だが、やっぱり、父の方が盛り上がる。寄席演芸の奥深さを知ったというのが、小猫先生の凄いところだ。

オオサンショウウオのリクエストがあったときも、その後、動物園で勉強して、出来るようになった。子どもたちは大喜びした。「寄席のお客様に足りないのは信じる気持ちです」。この小猫先生のお決まりのフレーズに思わず笑ってしまう。イリオモテヤマネコとツシマヤマネコの鳴き分けをやってみせて、「これは信じる気持ちの練習です」というのも、楽しい。

締めのヌーは10年ほど前にアフリカのケニアに行って研究した。すぐには鳴いてくれなかった。名前の由来になっている「ヌー」という鳴き声は、二日目まで粘って、ヌーの大群の中に、たまにはっきりとヌーという鳴き声が混じるところを見つけた。生の鳴き声の音の響きを耳で確かめ、映像に撮っておいて、リズムと音の雰囲気を確認したという。「想像するに、何かの質問を断っているヌー」という喩えがまた上手い。

3月21日から50日間の披露興行がスタートするが、色物さんの披露目は非常に珍しい。紙切りの当代の林家正楽師匠、四代目猫八師匠(半分の25日だった)、そして二代目立花家橘之助師匠。で、今回の五代目猫八師匠となる。

披露目に向けて、いくつかの新しいネタも考え中だという。というのも、各寄席とも2と8の日は和装で座りで高座を勤める。足の動きを封印される、上半身しかない。座って、立ちと同じことをするのは意味がない、と意気込みを語った。

ロケット団先生は浅草演芸ホールの興行で口上の後の食いつきを務めるが、いわく「おめでたい空気を冷やさず、温めすぎず」次の噺家に繋ぐことに心を砕くという。小猫先生は、蝶花楼桃花師匠の真打昇進披露で食いつきを務めたが、初日に小朝師匠の涙を見て、桃花師匠が号泣し、時間が押して押して、持ち時間が2分になった。そのときは、初春のウグイスのひと鳴きで降りた。それもカッコイイ!

また、口上も史上初の趣向がある。色物の正楽師匠、橘之助師匠が並ぶ。50日間を経験したお二人だ。だから、口上は五代目猫八師匠も含め9~8人が並ぶという。これに、馬風師匠も上がって、ドミノ倒しが見られるのか?楽しみだ。

各寄席では、物販にも力を入れる。小猫先生がデザインしたアクリルキーホルダーが5種類。ヌー、テナガザル、アルパカ、カバ、ウグイス。中身が見られないガチャガチャ方式で販売。どの動物になるか!?お楽しみだ。

後ろ幕は、元旭山動物園の飼育員で、現在は「あらしのよるに」等で有名な絵本作家、あべ弘士さんにデザインをお願いした。事前に襲名記念Tシャツを販売し、その利益で資金を調達したそう。だから、後ろ幕には贔屓与利となっている。そんな間もなく猫八となる小猫ファンによって支えられている襲名披露興行が益々楽しみだ。