一龍斎貞鏡文化庁芸術祭新人賞受賞記念講談会、そして白鳥残侠伝

一龍斎貞鏡文化庁芸術祭新人賞受賞記念講談会に行きました。貞鏡さんが令和4年度の芸術祭新人賞を、赤坂会館で開いた貞鏡修羅場勉強会が評価されて受賞された記念の会を内幸町ホールで開いた。この内幸町ホールは、父であり、師匠であった八代目一龍斎貞山と親子会を数年開いていた思い出の地だそうだ。その貞山先生が73歳で突然亡くなったが一昨年の5月26日。そのときは茫然自失だったという貞鏡さんが、今こうやって頑張っている。今年10月には真打昇進も決まっている。益々の活躍を期待したい。

「池田屋事件」一龍斎貞介/「黒田武士」一龍斎貞鏡/「当世女甚五郎」柳家喬太郎/中入り/太神楽 鏡味味千代/「青葉の笛」一龍斎貞鏡

貞鏡さん一席目、黒田節の由来。♬酒は飲め飲め、飲むならば、日ノ本一のこの槍を~。筑前福岡藩の家臣・母里太兵衛の武勇伝というか、酒豪伝説を興味深く聴いた。

主君の黒田政長が、「お前は酒癖が悪いから、一滴も酒を飲むな」と厳命されて、太兵衛は安芸国広島藩の福島正則のところに使者に赴くが…。福島の酒の勧めに最初は「下戸でございます」と固辞していたが、再三再四の勧め、それも酒を飲んだら、何でも好きなものを褒美として与えると言われたものだから、太兵衛は本気を出して、三升の酒をペロリと平らげた。

そして、福島が大事にしている名槍「日本号」を欲しいと言う。だが、これは太閤秀吉から授かった、福島にとって宝の中の宝。こればかりは譲れないと断ると、太兵衛は「福島様は嘘つきだ」と言い触らすと言う。困った福島はとうとう「日本号」を太兵衛に渡した。これぞ、武士の鑑と後世に名を残したという。黒田節にはそんな逸話が歌われていることを講談で知る。

貞鏡さん二席目は芸術祭新人賞受賞の読み物。一の谷の合戦における熊谷次郎直実と平敦盛のエピソードを読んだものだが、偶然にもこれも文部省唱歌「青葉の笛」の由来になっている。

♬一の谷の軍破れ 討たれし平家の 公達あわれ 暁寒き 須磨の嵐に 聞こえしはこれか 青葉の笛

摂津国福原。義経一行の奇襲に遇って、逃げ遅れた平家軍の中にいた平敦盛。熊谷次郎直実と相対するが、その面差しは息子直家にも似て、同じ16歳と聞く。見逃してやりたいと思うが、味方の梶原景時がやって来るのを見て、敦盛は観念する。熊谷はためらい、最期に申し残すことはないか、との問いに両親のことを思う気持ちが語られ、泣く泣く敦盛の首を討つ。最後の「南無阿弥陀仏」が印象的だ。そして、敦盛を哀れに思った熊谷は高野山に登り、出家したという。熊谷の花も実もある武士道の 香りや高し 須磨の浦風。

夜は中野に移動して、橘蓮二プロデュース “極”Vol.13「白鳥残侠伝~笑って貰います~」に行きました。今や、三遊亭白鳥師匠の作品は、落語のみならず、講談や浪曲の世界にも流布し、スタンダードになりつつある。その根底にあるのは、白鳥師匠の創作の才能と、その作品をご自身が広く話芸の芸人たちに口演を勧め、その後も自由に演ってよいと許可を出す寛容な心を持っていることだ。演芸界の発展に大きく貢献していることは間違いない。

「動物くん」三遊亭白鳥/「老人前座ばば子」蝶花楼桃花/中入り/「豆腐屋ジョニー」田辺いちか/「富Q」笑福亭茶光

桃花師匠は20代の頃、中野にあった武蔵野館という映画館で任侠映画にハマり、毎日のように観ていたという。特に好きだったのは、富司純子さん。往年の看板女優へのリスペクトを、白鳥作品にこめたのが素晴らしい。

主人公は福田組の姐さん、福田トメ子、86歳。任侠が生き辛い世の中で、末広亭で「任侠流山動物園」を聴いて、もう一度任侠を学び直したいと、寄席の前座修行をはじめるが…。楽屋働きを一生懸命にするが、どうしても任侠流になってしまい、楽屋の人々をかき回してしまう騒動記がとても面白かった。

いちかさんは、チーズファミリーと木綿一家のサンペイストアにおける抗争を、合戦モノを得意とする講談に仕立てることで、功を奏した。

チーズファミリーのドン・カマンベールの一人娘、マーガレット。そして、木綿一家の若頭、風に吹かれて豆腐屋ジョニー。この男女の悲恋がやがて喜劇になるのが面白い。サンペイストアの冬のあったかメニューの主役を巡って、食材の公家であるマロニー(でおじゃる)が両天秤をかけていた。湯豆腐につくと思いきや、ヘルシーメニューのチーズグラタン、マカロニではなくマロニーで!

抗争の火の粉の中、ジョニーがマーガレットをかばう。「俺は焼き豆腐になっても大丈夫だ」。途中、マーガレットが「あなたはおかめ納豆といい仲と聞いた」「どうせ、私たちは動物性と植物性」と悋気を起こすのも可笑しい。最後は、チーズフォンデュならぬ豆腐フォンデュとなって、サンペイストアの冬のあったかメニューは決まり!マーガレットとジョニーも同じ鍋の中で幸せになったという…。いちかさん、面白がって読んでいるのが最高だった!

茶光さんは自分自身を主人公に投影して、傑作となった。元々「富Q」は白鳥師匠が売れなくて貧乏だった時代の自分を主人公の金銀亭Q蔵に投影して創作された作品だが、茶光さんも笑福亭ちゃんこという名前で自分の不遇を落語に落とし込んでいた。

白鳥師匠がアフタートークで「この作品は苦労を知っている奴にしかできない」と言っていたが、その意味で茶光さんは、落語芸術協会で、江戸で上方落語を演じる噺家というコンプレックスをバネにしていたのが印象的だった。

上野広小路で火事が起き、芸術協会が出演している上野広小路亭の火事見舞いに行くと、他に立川流や、円楽党の噺家も来ていたというのも可笑しかったし、火事で焼き出されたちゃんこに対し、永谷の若旦那が上野広小路亭の座席の後ろ部分に住まっていいと手を差し伸べるのも何だかジーンとしてしまった。

白鳥作品で出てくる中国人のヤンさんは、北朝鮮のばあさんに置き換えていて、闇でマリファナの栽培をしているというのも笑えた。そして、笑福亭の紋である五枚笹を、逆さマリファナの紋と言って、ちゃんこの黒紋付を平気で着ているのも可笑しかった。

この噺はきっと、茶光さんの十八番になる。白鳥師匠から折紙を貰っていたのが、とても嬉しかった。