鈴本三月中席初日夜の部(春風亭百栄主任)
鈴本演芸場三月中席初日夜の部に行きました。主任が春風亭百栄師匠の芝居である。2003年に大江戸台風族(オオエドタイフーン)というユニットが結成された。林家久蔵、柳家さん光(現・甚語楼)、柳家太助(現・我太楼)、春風亭栄助(現・百栄)、三遊亭きん歌(現・鬼丸)、古今亭志ん太(現・志ん丸)、三遊亭天どんの7人がメンバーだ。「JUGEMU」という歌をCD発売し、アニメ「こちら亀有駅前派出所」のテーマソングにもなった。ご記憶の方もあるかもしれない。
その元メンバーを中心に構成された顔付けの興行になっており、中入りでは、その「JUGEMU」が流れていた。百栄師匠は「成金のような成功例が出る前に、こんな失敗例があったという。傷口を縫ったのに、また切り裂かれた感じ。思い出したくない記憶です」と冗談交じりに話していた。
「やかん」三遊亭東村山/「幇間腹」春風亭だいえい/奇術 アサダ二世/「はじめての確定申告」三遊亭天どん/「蝦蟇の油」柳家我太楼/浮世節 立花家橘之助/「壺算」古今亭志ん丸/「二コ上の先輩」林家きく麿/中入り/漫才 ホンキートンク/「たらちね」隅田川馬石/紙切り 林家楽一/「マザコン調べ」春風亭百栄
だいえいさん、身長187センチ、体重105キロ。鍼なのに、裁縫と勘違いして、「由利徹じゃない!」。教則本はダーティハリー。アサダ先生、いらっしゃーい。トランプ手品の種明かし。錯覚を利用するのは、手品の原点と。
天どん師匠、ピストルが小道具。職業は殺し屋。血まみれのフジコ。ピストルは必要経費として認められる。雑費?我太楼師匠、酔っ払った的屋。一杯が二杯、二杯が四杯、四杯が八杯に…。
橘之助師匠、弟子のあまねさんと二人高座。初めて観た。春は嬉しや。伊勢音頭。あまねさんは21歳、去年11月に高座デビュー。奴さんを踊った。初々しい弟子を我が子のように笑顔で見つめる橘之助師匠の優しい眼差しがいい。
志ん丸師匠、真っ当な高座。11頭の馬を長男が1/2、次男が1/4、三男が1/6で財産分けする計算が愉しい。きく麿師匠、倦怠期フライドチキン。ヨーデルで♬寄席出る日~走ればゲロ出るし~。52歳のなっても、ずっと変わっていない先輩の幼児性が可笑しい。怖い話をマジでするのではなく、怖いようで怖くない話を並べるのが愉しい。
ホンキートンク先生、安酒場「魚民」。遊次さんは山村紅葉そっくり!?歌っていた「修二と彰」の曲、亀梨和也と山下智久のデュオということを知らなかった。馬石師匠、実は大江戸台風族のメンバーだった!一回で辞めた。百栄師匠いわく「それが正解」。
楽一さん、何でも切るねえ。ヌートバー選手の注文に、ペッパーミルを入れるところ、凄い。大江戸台風族の注文は、7人のメンバー全員をちゃんと切り分けて、凄い。
百栄師匠、志ん朝師匠への憧れから導入。「大工調べ」における大家の正当性と、政五郎の啖呵の不条理を訴えるところ、マキヒコの母親の啖呵の不条理に重なる。販売店のアジフライのパン粉付け2週間から、いきなり本社勤務の常務昇進のマキヒコ。彼の“おもちゃ代わり”に付き合ってくれればいいという、カズエを人間扱いしない母親の失礼千万に、寧ろ笑ってしまう。
岐阜経済大学準ミスで、ワンレン、ボディコン、ラッセルの絵で独り癒されているという昭和テイストのギャグが愉しいし、「拾った野良猫」「マグロ女」「お金で身体を自由にさせてもらう」等々のコンプライアンス完全アウトのフレーズも、マキヒコママの口から出ると、なぜか笑いに変換される落語の自由さが好きだ。
金と地位と権力を笠に着て、不条理なことを並べた啖呵は、スッキリするというより、寧ろ「このオバサン、何抜かしているの?」という嘲笑として、笑うことができる。そこに百栄師匠の落語の素晴らしさがあるのだと思う。