玉川奈々福 喬太郎アニさんにふられたいっ!

「玉川奈々福 喬太郎アニさんにふられたいっ!」に行きました。奈々福先生が喬太郎師匠の胸を借りて浪曲の可能性を広げていくシリーズの第二弾である。

第一弾は2016年に「喬太郎アニさんをうならせたい!」としてスタート、2022年までにスペシャルを含めて計8回開催された。そこから、奈々福先生の大切な持ちネタが幾つも生まれた。列挙すると、①祖師ヶ谷大蔵のカネゴン餅②池袋の鬼夫婦 うるとら風味③浪曲版熱海殺人事件④今年の味噌が出来た日に⑤赤穂義士外伝 噂話屋の婆のはなし⑥空手バカ!アラブ風雲録~岡本秀樹一代記⑦豊子師匠の素敵なところ。そして、スペシャルとして、喬太郎師匠の作品「カマ手本忠臣蔵」を浪曲化した、シン・忠臣蔵。

そして、第二弾は喬太郎師匠から出される御題を元に新作浪曲にチャレンジするという趣向だ。御題を「ふられたいっ!」というワケだ。第1回目の御題は「日本の民話」。喬太郎師匠もこの御題に沿う演目を披露する、チャレンジ&コラボの新シリーズとなる。

「物くさ太郎」玉川奈々福・広沢美舟/「梅津忠兵衛」柳家喬太郎/中入り/「鹿島の棒祭り」玉川奈々福・広沢美舟

民話、いわゆる御伽噺というと、「桃太郎」「浦島太郎」「花咲か爺さん」などは幼少期から馴染みがあったが、「物くさ太郎」は恥ずかしながら存じ上げなかった。ものぐさ者、つまりは横着者という言葉は知っていたが、そういう民話があること自体、知らなかったので、ストーリーを興味深く拝聴することができた。実際、奈々福先生は原作にかなり忠実に浪曲化している。

場所は信濃国筑摩郡あたらしの郷。そこに住む物くさ太郎が主人公だ。道に転がった餅を拾うのが面倒で、誰かが通りかかったら取ってもらおうという了見の変わり者だ。畑を耕すとか、商いをするとか、そういうことは一切やりたくないという…。

優しい地頭がいたものだ。領内にお触れを出した。この物くさ太郎に毎日食事を出し、酒を飲ませるように。だから、村人は3年間、彼を養った。で、3年後に国司殿から働き手を一人、上京させよという命令が下った。村人は厄介払いも兼ねて、その役目を物くさ太郎に押し付けた。当然、そんな面倒なことは嫌がるが、京には美しい女が沢山いる、妻にもらって一人前になれると煽てると、物くさ太郎はこれを引き受けた。

だが、そんなに簡単に物が運ぶわけがない。いよいよ故郷に帰る段になり、物くさ太郎は宿の主人に相談した。道を歩いている女房の中から気に入ったのを見つけて捕まればいい。すごい、乱暴な話だが、素直に受け取り、物くさ太郎は実行に移す。

清水寺で飛び切り美しい女房を発見!抱きついて、接吻しようとする。当然、女は嫌がる。謎かけをして、逃れようとする。強引に自分のものにしようとする物くさ太郎。何とか、その女房は彼を振り切り、逃げ切った。

だが、物くさ太郎は諦めない。「唐橘紫の門」と言っていたことを思い出し、潜入。縁の下で様子を窺う。すると、上から聞こえてくる話声に「あの女房だ!」。物くさ太郎は飛び出し、強引に迫る。女房も籠に入れた栗柿梨を渡し、謎かけをするが、自分の良いように解釈し、諦めない。何度も謎かけを繰り返していくうちに、この男は歌道に明るいことが判る。さすがの女房も観念した。

「今日よりはわが慰みに何かせん」に対し、「ことわりなればものも言われず」と返歌した物くさ太郎に、女房は感動し、深い契りを結ぶ。理(ことわり)と琴割りを掛けた歌の技法が功を奏したのだ。すごい。

で、物くさ太郎は風呂に七日間入ると、それまで垢で汚かったのが、すべて綺麗になり、実は玉のように美しい姿となる。歌の才能があり、美男子。で、よく調べてみたら、この物くさ太郎は仁明天皇の第二皇子が信濃に流されたときにもうけた子どもで、つまりは天皇の孫だったのだ!

「結局は血筋かよ!」という曲師の広沢美舟さんが稽古のときに呟いたという一言が、奈々福先生の台本に書き加えられたという創作エピソードが面白かった。奈々福先生も後で、「結局、貴種流離譚なんですね」とおっしゃっていたが、それでも楽しかった。

浪曲云々というよりも、知らない民話だったから、とても興味深く聴くことができたというのが率直な感想だ。でも、喬太郎師匠が小泉八雲作の「梅津忠兵衛」を落語にしたように、馴染みのない話を話芸に仕立てて、身近なものにするというのは大事なことだ。今後の「ふられたいっ!」に注目したい。