都民寄席、そして鈴本三月上席七日目夜の部

都民寄席に行きました。講談の会である。都民寄席実行委員会委員長の長井好弘さんが解説として登壇し、昭和5年から6年にかけて某新聞に連載された「落語講談百人」の記事から、講談師を数人ピックアップして紹介していた。二代目桃川如燕、六代目一龍斎貞山、三代目神田伯山…。明治から大正にかけて活躍した浪曲の中興の祖・桃中軒雲右衛門の人気の影響で、講談は浪曲に押されていたという。その後も講談はずっと衰退の一途を辿ってきた。それが神田伯山先生の出現により、風前の灯だった講談が勢いを盛り返しつつある。

「出世浄瑠璃」一龍斎貞寿/「天明白浪伝 悪鬼の万造」神田阿久鯉/「徂徠豆腐」宝井琴調/中入り/解説 長井好弘/「難波戦記 真田の入城」神田愛山

貞寿先生、柔らかな口調で聴きやすく、物語が頭に入っていく。信州松本の松平丹波守が参勤交代の折、碓氷峠で聴いた浄瑠璃の声を気にいり、声の主を呼び寄せる。その主は信州上田の松平伊賀守の家臣、尾上久蔵と中村大助の二人だった。丹波守は目の前で浄瑠璃を聴かせてくれと頼む。二人は「殿には内密に」という約束で浄瑠璃「関の扉」を披露する。尾上が太夫、中村が口三味線というのが愉しい。

だが、丹波守は伊賀守につい口を滑らせてしまう。が、浄瑠璃披露と言っては迷惑がかかる。咄嗟の判断で碓氷峠において伊賀守の家臣が猪退治をしてくれて助かったと嘘をつく。そうなると、伊賀守は本人たちから直接、話を聞きたくなり、尾上と中村を呼び出す。困った二人だが、尾上の機転で「猪退治をした」様子を講談口調で流暢に語る。ここが、この読み物の最大の見せ場だろう。

褒美として、二人は100石の加増がされる。二人は戸惑い、この加増を受けて良いものか悩んだが、最終的にはこの100石に見合う優秀な働きをする家臣に成長したので、数年後に伊賀守が真実を知らされたときも笑い話になって、めでたし、めでたし。こういう読み物は大好きだ。

阿久鯉先生、泥棒たちの暗躍する世界観が面白い。悪鬼の万造たちが盗みに入った上総屋という店が、実は泥棒の大元締めの神道徳次郎が主人で、八百蔵吉五郎が番頭という、彼らが世間の目を誤魔化すための店だったというのが、まず面白い。で、悪鬼の万造たちに、「真面目に商売をやりなよ」と百両を渡し、王子で達磨茶屋を始めるという…。

その茶屋(実は遊女屋)が儲かり始めると、万造は吉原に入り浸りになってしまい、商売に支障をきたす。一緒に達磨茶屋を経営していた半助は、万造のだらしなさに怒り、神道徳次郎に報告し、達磨茶屋を売り払ってしまう。困った万造は神道にすがりに行くが、逆に説教される始末。そりゃあ、当たり前だよな。

だが、恨みを持った万造は上総屋は神道徳次郎たち盗賊の仮の姿であることを自身番に密告…いわゆる逆ギレだ。さあ、これでどうなるか?はまたの機会に、と切った。阿久鯉先生の白浪モノは面白い。

夕方からは鈴本演芸場に移動して、三月上席夜の部に行きました。主任が入船亭扇橋師匠。去年9月に真打に一緒に昇進した春風亭一蔵師匠が先月に末廣亭で主任を勤めたが、それに続く快挙だ。

「道具や」入船亭辰ぢろ/「真田小僧」入船亭扇太/奇術 アサダ二世/「狸札」桂やまと/「鰻屋」むかし家今松/粋曲 柳家小菊/「珍宝軒」林家きく麿/「浮世床~夢」隅田川馬石/中入り/漫才 米粒写経/「紙入れ」古今亭菊之丞/紙切り 林家二楽/「木乃伊取り」入船亭扇橋

扇太さん、童顔だが落ち着きのある声と口調。大きな声で小さなオアシ!アサダ先生、きょうはちゃんとやりますよ。水谷八重子「滝の白糸」で水芸の思い出。種明かしをしながらのマジックに親近感。やまと師匠、出来立ての五円札。手が切れるような…、いや引っ掻きはするけど。

今松師匠、渋いね。鰻裂きを食べにきたんじゃない。傷だらけの鰻、名付けて与三郎。小菊師匠、粋な都々逸。今別れ 道の半町も行かないうちに こうも逢いたくなるものか。眉描き足して 紅引いて 割りに合わない手間掛ける。

きく麿師匠、小林旭「昔の名前で出ています」ワンコーラス。たまには喧嘩で負けて来い~。九州名産並べるが、佐賀県は何もなかけん。馬石師匠、色事はこうでなくちゃ。お兄さんが好きになってしまいそうですわ。自分の胸に手を当てて…、「よろしい」と言っています。

米粒写経先生、言葉の違い、アカデミック!爆笑と大笑い。森と林。山と丘。遺体と死体。この違いを新明解国語辞典から。菊之丞師匠、色仕掛けがないのが残念。人の女房と枯れ木の枝は登り詰めたら命懸け。二楽師匠、ハサミ試しは芸者さん。注文で、お花見、龍虎。

扇橋師匠、上手いなあ。若旦那はじめ番頭、鳶頭の田所町の三遊び人を呼び戻す!と鼻息荒く角海老に乗り込んだ清蔵だったが…。酒を勧められて、三杯飲んだところで、デレデレになってしまう生態の描写が実に巧い。

かしくが「初回惚れしました。堅くて、黒くて、毛むくじゃらなモクゾウガニみたいな、そういう手で私の手を握ってほしかった」と言うと、清蔵はもう興奮状態で、「握ってほしい?…、いやあ、握れないだあ」。

吉原という遊び場には麻薬性があるのだなあということが伝わる愉しい高座だった。