日本浪曲協会三月定席三日目、そして浅草演芸ホール「桃組」公演

木馬亭で日本浪曲協会三月定席三日目を観ました。きのうは講談枠に神田伯山先生出演ということで、満員御礼の130人の来場者があったそうだが、きょうは15人という少数精鋭のお客様が見守っての公演だ。主任の天中軒雲月先生は「こういうときこそ、力を振り絞って高座に立たなくてはいけない」とおっしゃって、「骨の折れる演題」(本人談)を敢えて選んだ。「忠僕直助」。魂の籠った高座だった。ブラボー!

「楽屋草履」三門凌・馬越ノリ子/「水戸黄門漫遊記 尼ヶ崎の巻」港家小そめ・沢村博喜/「鯉淵要人」東家孝太郎・伊丹明/「名月狸ばやし」花渡家ちとせ・馬越ノリ子/中入り/「桜田門外余話 首護送」真山隼人・沢村さくら/「甦りの孫四郎」神田紅純/「高峰譲吉」鳳舞衣子・伊丹明/「忠僕直助」天中軒雲月・沢村さくら

隼人さんは前半をユーモラスに描き、後半を少しシリアスにする演出が良い。「あそこに見える橋は何だ?」を繰り返して船頭を言いくるめて、江戸橋、日本橋、一石橋、道山橋、呉服橋、数寄屋橋まで刻んで漕がせてしまう。金に釣られていたうちはいいが、命の危険を感じて船頭が応じてしまうところ、「俺の女房は向かいの金太に取られるのか」と洒落まじりにして話を柔らかくしている。

安政の大獄を実行した、豪州彦根藩35万石の大老・井伊直弼を桜田門で襲撃した仲間から、首尾よく“井伊の首”を受け取った男は、作戦実行のために計算づくで酔っ払いのふりをしていたのだ。「まさか季節外れのスイカじゃない」と怯える船頭の姿が目に見える。

雲月先生、渾身、熱演。情が深くて、困った人には施しをしてしまう優しい岡島八十右衛門が、大野黒兵衛に「なまくら刀」「腰抜け侍」呼ばわりされた屈辱。その屈辱を晴らしてあげようと考えた岡島の中間、直助は赤穂を出立して大坂に行き、刀鍛冶の名人である津田越前守助広に入門する…。

3年の歳月をかけて、直助は免許皆伝、というより師匠にその才能を認められ、津田近江守助直の名を与えられる。そして、立派な刀を持って、赤穂にいる主人、岡島の許に戻る。そんな部下を持った岡島の感激、いかばかりか。その後、岡島は赤穂義士の一人として活躍するが、その陰には忠僕たる直助の忠義があったのだと思うと、感慨ひとしおである。

夕方からは、浅草演芸ホールに移動して、三月上席夜の部に行きました。主任が蝶花楼桃花の「桃組」公演である。何と、色物も含めて出演者が全員女性という前代未聞の興行だ。折角だから桃の節句のきょう、伺った。

「平林」古今亭雛菊/「権助提灯」古今亭佑輔/余興 蝶花楼桃花・林家つる子/「コンビニ参観」弁財亭和泉/「長短」林家きく姫/曲芸 翁家小花/「いじめていじめて」神田茜/「初天神」古今亭菊千代/奇術 松旭斎美智・美登/「お菊の皿」三遊亭歌る多/中入り/「JOMO」林家つる子/「時そば」柳亭こみち/漫才 ニックス/「寛永三馬術 出世の桃花」宝井琴鶴/粋曲 柳家小菊/「徂徠豆腐」蝶花楼桃花

雛菊さん、自称ジェネリック桃花。交通戦争の世の中?無筆なら教え方が変わってくる、という台詞が面白い。佑輔さん、凛とした中に艶やかさが。正妻vs妾、女の道vs女の意地。どちらにも仄かな色香が漂うのは女流ならでは。

余興は桃花師匠とつる子さんの歌合戦。どちらもCDを出しているので、持ち歌対決という…。つる子さんは♬ぐんまラプソディー…恋のからっ風。桃花師匠は♬パピプペ♡ピーチ号、それにB面の♬FlyHigh~桃色の花を~と2曲!歌唱力ではつる子さんが勝っていたな(笑)。

和泉師匠、余興を“錦糸町の地下にあるスナック”みたいと。ヤマダショウイチの母でございます~。帝王学を学ぶにはまず平民の気持ちを知ってから。女狐め!きく姫師匠、気の長い方を千代婆さんに。フェラーリと大八車の喩え、可笑しい。

小花さん、「桃組の筋肉担当です」。独りの高座は初めて観た。安定感あり。茜先生、講談の新作担当。金曜日の寂しい女の悲哀をユーモラスに描く。寂しい女は宗教、食べ物、お笑いに走る(笑)。コンプレックスを解放することで、寂しさが快感になるという…。

菊千代師匠、女流真打先駆者の一人。団子の蜜を舐める仕草がいい。美智・美登先生、和装で手品。BGMは演歌「SANOSANOSA」。♬稽古帰りの柳橋、出会い頭の鉢合わせ~。歌る多師匠、もう一人の女流真打先駆者。「20年後の桃花です」。幽霊とお化けの違いを自虐的に。

つる子さん、出身地群馬の新作。群馬県人なら誰もが知っている「上毛かるた」をユーモラスに描く。つる舞う形の群馬県。かるた部で過ごした青春を、お囃子とアクションで表現する卓越した演出に拍手喝采。

こみち師匠、「7分しか持ち時間がない!」。一人目の客は早口でよく喋るおばさんで、こみち師匠に似合っている。ニックス先生、サンドイッチマンと同期。桃花師匠とかけて、高級かばんと解く、その心は「革いいなあ」。ねづっちです!

琴鶴先生、浅草演芸ホール初出演。出世の梅花ではなく、桃花にする心遣い。家光が愛宕山の石段の上の桃の花を所望するという…。小菊師匠、いい人とどうでもいい人は違う!岡惚れしたのは私が先よ、手出ししたのは主が先。弱虫が捨てちゃいやよと言えた晩。良いねえ。

桃花師匠、組長としてかっちりとした高座。本を売るくらいなら、飢え死にした方がまし。握り飯を恵んでもらうと乞食になる。徂徠の学者としての矜持がいい。上総屋七兵衛の言葉もいい。「旦那、世に出ましたね。お天道様はちゃんと見てる」。

徂徠の感謝。「たった20文でも、私にはお宝だった。そして、額に汗して働く人こそ、日ノ本の宝だと知った」。出世する人は、出世するべくして出世するのだとつくづく思う。