ゆきのすみれ、そして鈴本二月下席夜の部

木馬亭の「ゆきのすみれ」に行きました。京山幸乃さんと天中軒すみれさんの二人会である。去年の暮れの「ゆきのすみれ大感謝祭」がおこなわれ、スペシャルゲストに二人の師匠、京山幸枝若先生と天中軒雲月先生が出演したときに行ったのがきっかけとなり、通常回に行こうと思った次第だ。

すみれさんの方は木馬亭定席に出演しており、以前から存じあげていたが、幸乃さんの方はその「感謝祭」で初めて巡り会い、この人いい!と思ったのだった。二人会だが、どちらか一人が2席、もう一人は一席と「おまけコーナー」を担当するという面白い構成。きょうは、すみれさんが二席で、幸乃さんが一席。

おまけコーナーは上方の浪曲親友協会にちなんだ超マニアック(!)なクイズ大会で、8問出題されたが、客席に全問正解者は出ず、6問正解が二人いたので、じゃんけんして勝ったお客さんに、ゆきの・すみれ二人のサイン色紙が贈呈された。でも、親友協会所属で現役で活動しているのは浪曲師・曲師合わせて25人しかいないというのにはビックリした。そして、幸乃さんが一番香盤が下だなんて!

「元禄忠臣蔵 琴の爪」天中軒すみれ・広沢美舟/「祐天吉松 飛鳥山」京山幸乃・一風亭初月/中入り/おまけコーナー 浪曲親友協会クイズ/「若き日の小村寿太郎」天中軒すみれ・広沢美舟

すみれさんの一席目「琴の爪」は真山青果作の歌舞伎で知られ、映画化もされている。映画では磯貝十郎左衛門を中村扇雀(後の坂田藤十郎)、妻おみのを扇千景が演じている。テーマは「偽りの恋が誠の恋になる」ということだろうか。

赤穂義士の仇討本懐を成就するため、色々な作戦が立てられたが、磯貝はおみのに近づき、婚約までして、吉良側の情報を得ようとした。やがて、婚礼を前に磯貝は姿をくらましてしまう。だが、おみのは仇討が終ったあとも、磯貝が自分のことを愛していたと信じたい。あの夫婦の契りは偽りではなく、誠だったと磯貝の口から言ってほしい。そういう一念が感じられる。偽りを誠に返す、という節があったが、磯貝も騙すつもりがおなみに本気で惚れたのではないか。おなみが磯貝の切腹の前に自害、「あの世で一緒になりましょう」という言葉が胸に突き刺さる。

幸乃さんの祐天吉松と息子七松の出会い、素晴らしかった。両替商の加賀屋の婿に入った吉松が、金五郎に強請られて、仕方なく妻子を置いて出て行かなければいけなかった事情があるにせよ、「チャンは逃げた」と言う息子に言い訳はできない。

母が病に伏せ、自分が辻占売りをして少ないながらも銭儲けをしなければいけない七松の現在の境遇を知るにつけ、吉松は自分がお前の本当の父親だと言い出せない。むしろ、七松の方が目の前の人物が父親だと察する。「おいらのチャンだろ?チャンだと言っておくれよ」。3両という大金を貰って、母親は盗んできたと思うに違いないから、家まで来ておくれよと吉松の手を引っ張り長屋まで連れてくる。母親も夫の吉松が来たことを知り、家の前に行く…、さあ、どうなる!というところで「ちょうど時間となりましたあ」。上手いなあ。

すみれさんの二席目は浪曲師になって初めて教えてもらったネタ。今年1月に年明けを果たし、独り立ちして初めての「ゆきのすみれ」ということで、初心に返ると言っていた。

一席目とテーマが「嘘から出た誠」という意味で似ている、とも。こちらの方は、嘘も方便と言った方が良いが、支払が出来ない大晦日に小村寿太郎が魚平主人に頭を下げて、正直に真実を述べる誠実が素晴らしい。そして、その小村の意気に感じ入った魚平主人は3年間、仕出し弁当を1日3回届けるのだから、その心意気も見上げたものである。

そもそも小村が貧乏暮らしをしなくてはいけなくなったのは、新政府の方針に対し異議を唱えた頑固一徹さにある。それを貫く小村がやがて政府にも認められ、国家の外交の要人に登用されるのだから、立派である。それを陰で支えたのが魚平だ。身分を超える友情。そして、男同士の真心に心打たれる。

夜は鈴本演芸場に移動して、二月下席四日目夜の部に行きました。26日なのに、なぜ四日目かと言うと、21日と22日は館内工事のため休館して、23日を初日としてスタートしたからだ。柳家さん助師匠の主任抜擢ということで、駆けつけた。

「道灌」桃月庵ぼんぼり/「人形買い」柳家小はぜ/奇術 ダーク広和/「芋俵」柳家喬之助/「歯シンデレラ」林家きく麿/紙切り 林家正楽/「ぞろぞろ」三遊亭鬼丸/「蛙茶番」橘家圓太郎/中入り/太神楽曲芸 鏡味仙志郎・仙成/「あちたりこちたり」柳家小満ん/粋曲 柳家小菊/「らくだ」柳家さん助

小はぜさん、しっかりとした芸。一昨年の売れ残りだとバラす小僧はお喋り好き!おもよさんと若旦那の面白い話をペラペラ。ダーク先生、手品おたく。3年に1回の手品の世界大会であるフィズムの91年の優勝作を披露。ロープ1本でここまで魅せてくれる芸に感服。

喬之助師匠、楽しそうに演じる。生の芋を薄く切って食べると、甘くて美味しいって本当?お腹こわさないかなあ。きく麿師匠、小林旭熱唱。「昔の名前で出ています」をワンコーラス。初老の女性を演じるの上手いよなあ。正楽師匠、名人芸。相合傘、雛祭り、猫、ひまわり、双子のパンダ。

鬼丸師匠、新作テーストの古典が素晴らしい。神様のモノローグから入るのが、とても新鮮だった。圓太郎師匠、外れ無し。舞台番に逃げるところが、半ちゃんのいなせなところ。「これだけのものを持っているのは他にはいねえよ」(笑)。

仙志郎・仙成さん、至芸。安定感がある。いつもお見事!と思っちゃう。小満ん師匠、素敵。サッポロ黒ラベル、タクシー、クラブ「スペード」。松坂屋を「まっちゃかや」。モダンな新作。小菊師匠、粋だね。もしもわたしが鶯ならば 主のお庭の梅の木で 惚れましたとエー たった一声聞かせたい。

さん助師匠、様々な工夫を凝らした演出の「らくだ」。サゲは「冷やでもいいから、もう一杯」と火屋まで行くんだけど、そこまでの工程が他の噺家とだいぶ違う。月番さん、大家さん、漬物屋に屑屋が訪問するところは演じず、兄貴分が「行ってこい」と言うと、すぐに屑屋が「行ってきました」で省略し、兄貴分に報告するスタイルで簡略化を図っている。カンカンノウを踊らせるところも、大家のリアクションは無し。

また兄貴分が屑屋に酒を勧めるところも、三杯飲ませるのは教科書通りだが、あまりクダクダと酒乱を描かない。四杯目を要求するところで、「釜の蓋が開かないだろう」に、「そんじょそこらの屑屋と訳が違うんだ!」と一喝するのみ。すぐに、らくだの死骸を湯かんして、樽に納めて、担いで落合の焼き場に向かう。

初めて聴いたのは、兄貴分が池田屋という商家で毎晩、博奕がおこなわれていることを知っていて、落合へ行く途中にそこへ寄って、番頭を呼び出し、「弔いを預かって、いくらか貸してくれ」と強請る。主人に見つかりたくない番頭から2両を巻き上げることに成功する。

そして、落合の焼き場で屑屋の知り合いの安公に、その2両を賄賂として渡して、これで焼いてくれと頼む。で、屑屋、安公、兄貴分は車座になって3升の酒を飲み、ベロベロになるまで酔う。

樽に死骸がなくて、土橋まで行って願人坊主を押し込み、焼き場に連れて行く以降は普通と変わらない。陰で博奕をしている商家を強請る件と、焼き場で3人が車座になってベロベロになるまで酔う件。他の噺家では聴いたことがなかったので、とても新鮮だった。