落語教育委員会

なかのゼロ小ホールで「落語教育委員会」を観ました。この会の名物はオープニングの「携帯電話を切りましょう」啓蒙コント。その時々の旬のネタを取り込んだネタでいつも笑わせてくれる。きょうは…。

作家先生風の着物を着た三遊亭兼好師匠が歩き回っている。横で座っている出版社の編集長が三遊亭歌武蔵師匠、それに編集部員の柳家喬太郎師匠。皆が“めでたい報せ”を待って、落ち着かない様子だ。「これが決まれば、どんどん売り上げが伸びる」「幾つかの大手書店にサイン会ができるようにお願いをした」。直木賞?または芥川賞?と思わせておいて…。

喬太郎師匠の携帯電話が鳴り、電話を取る。「はい、決まりましたか。はい、はい」。他の二人は固唾を飲んで答えを持っている。電話を切る喬太郎師匠。「決まった?」「はい。一之輔だそうです」「なーんだ、僕(兼好)の名前も挙がっていたのに」「桃花が有力と言われていたけどね。一之輔か」。直木賞でも芥川賞でもなく、待っていたのは笑点大喜利の新メンバーだったというオチ。笑った!

二ツ目の柳亭市好さんの「寄合酒」を挟んで、喬太郎師匠は「すみれ荘201号」。結構久しぶり、と思って調べてみたら2014年に同じなかのゼロホールで聴いている。日大の落研時代の話題を楽しそうにマクラで話していたので、もしや…と思ったけど、嬉しかった。ユミコが実家に帰ってお見合いをするところの、市議会議員のヨシカワさんのオヤジギャグオンパレードのキャラクターとか、見合い相手のヒロユキさんが趣味はミュージックと言って「東京ホテトル音頭」を歌うのとか、前半も実に愉しいのであるが、秀逸はユミコが東京の同棲先のアパートに戻ってからだ。

彼氏にある疑いを持っているユミコ。「私に隠していることがあるでしょう?」と責める。「あなた、落研でしょう?汚い!」。一緒に暮らしていて、部屋に扇子や手拭いや帯や足袋があったら気づくと言うユミコに「いや、俺は市川染五郎だよ」。でも、サザンオールスターズとラベルの貼ってあったカセットテープをかけたら、「志ん朝の火焔太鼓じゃない!」(笑)。もう言い逃れができない彼氏だが、ユミコにも容疑が…、という傑作だ。

僕らが大学生活を送った1980年代。「落語が好きだ」と友達に言えずに、カモフラージュでテニスサークルに入って、こっそり寄席やホール落語に行っていた僕は思うのである。「自分に正直に生きた喬太郎師匠は偉い!」。もっと堂々と自分の好きなことを恥じないで楽しめば良かった。ああ、もう戻れない青春!

中入り後、兼好師匠は「粗忽長屋」。粗忽っぷりがとても愉しい、軽妙な高座だ。「自分がここで死んだことも忘れて、家に帰ってしまう。そういう野郎なんです」という兄貴分も可笑しいが、「兄貴、俺は死んだ気がしない」「なまじ死に目に会わない方が」「すみません。私がここで死んだそうで」と終始頓珍漢なフレーズを連発する熊さんが可愛く思えてしまうのが落語の魅力だと思う。

トリの歌武蔵師匠は「植木屋娘」。お寺の伝吉さんを一人娘のお花の婿に貰おうと一計を案じる父親の幸右衛門だが、作戦は失敗。だが、そんな計略を用いなくても、若い男女はお互いに気に入っていて、幸右衛門の知らないところで“いい仲”になっていたという…。上方落語の移植で、歌武蔵師匠が得意にしているネタだが、登場人物が皆いい人で、最終的に皆が幸せになるのが素敵な噺だと思う。

 

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