ザ・桃月庵白酒
大手町独演会「ザ・桃月庵白酒」に行きました。「其の九 ライト」と副題にあるように、今年で9回を数えるこの独演会は「たっぷり四席」を売り物に、かつては3時間を超える公演もあったが、「くたびれるので、軽めでいきましょう」という意味合いがこめられている。それでも例年通り、軽めの噺を含めて四席を演じ、大変満足度の高い独演会となった。
一席目は「お茶汲み」。この噺を演る噺家さんは少ないと思う。昔駆け落ちした男と瓜二つだと作り話をして客を持ち上げ、馴染みになってもらおうという作戦をとった花魁。その手口を友人から聞いた男がその花魁に対し、同じ戦法を取って良い思いをしようとするが…。
やっぱり花魁の方が一枚上手というのが、いかにも落語らしい。白酒師匠の上手いのは、花魁の緻密に構成された作り話を、男が男性バージョンにアレンジして話すところ、花魁が「こいつ、騙そうとしているな」と勘づきながらもニコニコして聞いている表情に何とも言えない滑稽があることだ。
二席目は「火焔太鼓」。古今亭のお家芸だが、志ん朝師匠亡き後は色々な噺家さんが手掛けている。独自のカラーという点では、白酒師匠が一日の長があると言えるだろう。志ん生の手によってふんだんなギャグが盛り込まれて人気演目になったこの噺からいかに離れるか。その点において白酒師匠は秀逸なのだ。
いつも女房の尻に敷かれている甚兵衛さんが思いがけず、太鼓が300両で売れたことで舞い上がってしまったときのアタフタぶりが何とも可愛らしい。「幾らなら手放す?」「いくら、なめろう、手羽先」とか、「300金でどうだ?」「売る、ルルルゥ」「キタキツネを呼ぶな!」とか、「しかと確かめよ」「鹿と戯れろ?」とか、単なる言葉遊びではなく、そのパニックぶりが伝わる。
中入りを挟んで、「親子酒」。最終盤のグデングデンの父親とベロベロの息子の掛け合いも面白いが、息子が帰ってくる前の夫婦のやりとりが好きだ。
「一合だけだから、お願い!ばあさん、綺麗だよ」「本当ですか?」「本当、一合だけ」「そっちじゃなくて」「あっ、ばあさん、綺麗だよ」。「もう一合だけ、お願い!愛しているよ」「本当ですか?」「本当、あと一合」「そっちじゃなくて」「あっ、ばあさん、愛しているよ」。
トリネタは「山崎屋」。プログラムのインタビューの中で、白酒師匠はこの噺について「あれだけの噺を面倒な仕込みの後に、さらっとサゲることを楽しんでもらう。これが落語だから」と語っているが、まさにその美学があった。「新造で三分がつきんした」、鮮やかに決まった。
この噺の面白いのは、番頭が若旦那の願いを叶えてあげるために、惚れた花魁を身請けして女房にする筋書きを実に緻密に創り上げ、その狂言を若旦那、番頭、鳶頭、花魁がきちんと演じることで、大旦那はまんまとその結婚を許しちゃうことだ。筋書きをスラスラと狂言作者の如く喋る番頭がカギで、噺運びが巧みでないと面白くない。その点、白酒師匠の高座はリズムとメロディーがあって、気持ち良く聴けるから素晴らしい。