末廣亭二月上席夜の部千穐楽、そして渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」

新宿末廣亭で二月上席夜の部千穐楽を観ました。朝から雪が舞う天候で、ちょっとだけ行くのを断念しようかと脳裏をよぎったが、夕方からみぞれ混じりの雨に変わり、思ったほどの大雪にはならなかったので、当初の予定通り行くことに。行って良かった!橘家文蔵師匠が主任の芝居10日間のうち、予定が詰まっていて、きょうしか選択肢がなかったが、とても充実した内容で大満足であった。

「寿限無」柳亭左ん坊/「芝居の喧嘩」橘家文吾/漫才 ニックス/「たらちね」隅田川馬石/「鈴ヶ森」柳亭左龍/奇術 マギー隆司/「雪とん」入船亭扇辰/「妻の旅行」柳家はん治/粋曲 柳家小菊/「宗論」春風亭一朝/中入り/「安兵衛狐」柳家さん花/漫才 ホンキートンク/「珍宝軒」林家きく麿/「棒鱈」三遊亭歌奴/紙切り 林家正楽/「ちりとてちん」橘家文蔵

文吾さん、「ここからが面白い」落ち。オチの種類の説明で「おっつけオチは私の師匠の専売特許」(笑)。お膝送りが上手い弟弟子の文太の物真似も愉しい。ニックス、そうでしたか。コロナ太りは多少ある、に「あなたの場合は多々でしょう。それも太い太いの太太」!

馬石師匠、雲助一門紹介。4人の寄席書きは「まるでお経のよう」と。祝言で高砂やをちゃんとやる大家さんは珍しい。すぐ帰っちゃうけど。左龍師匠、顔芸で笑っちゃう。髭がアサダ二世。筍が尻に刺さったところ、すごいリアルだった。

マギー隆司先生、不思議な面白さ。色が変わるシングルレコード。浮く千円札。さらにトランプのカードをお客さんに引かせて当てるマジック、種明かししたけど、すごい大胆!扇辰師匠、田舎の若旦那とお祭り佐七の対照鮮やか。

はん治師匠、三枝作品。普段話せない亭主の妻に対する愚痴に同情する。小菊師匠、粋な都々逸。なんの寒かろ、ひとつの傘に、触れる手と手の温かさ。雪の日にぴったり。一朝師匠、イッチョウケンメイ。俺は十五の歳で吉原で目覚めた!

さん花師匠、身長188センチ、体重110キロ。偏屈の源兵衛が花見から墓見に変更するこだわり、イイネ。ホンキートンク先生、居酒屋一休。抱きしめてトゥナイト落ち。

きく麿師匠、九州版「金明竹」。明太子、辛子蓮根、角煮饅頭、芋焼酎…、九州の名産が並ぶのが愉しい。佐賀は何もないの(笑)。歌奴師匠、「新婚ボケの兄弟子の代演で来ました」。正楽師匠、国宝級名人芸。注文に応えて「バレンタインデー」と「雪景色」。

文蔵師匠、10日間ネタかぶりなし!「10日間通っているお客さんがいるので」。すごい!前半は六さんのこってりとした世辞を実に楽しそうに演じているのが良い。レッド、イエロー、ブルー、グリーン、ピンク、5人揃って「ちりとてレンジャー!」。知ったかぶりで嫌味な寅さんをギャフンと言わせる作戦、大成功。「ちりとてちん」を口にして悶絶する寅さん、最高に可笑しい!

帰宅して、配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ」を観ました。キュレーターのサンキュータツオ先生とプロデューサーの林家彦いち師匠が、若手を中心に新作ネタ卸しを奨励している2か月に1回の会。これが落語界の活性化に大いに貢献していると思う。今回は彦いち師匠自らも新作ネタ卸しに挑むというのも素晴らしい。

「Barの奥」柳家やなぎ

ハードボイルド風に闇社会を描いているようで、実はコミカルな面もあるという作風が良い。不死身の辰がボスの殺害を狙って、毒薬ポピドキシンを入手しようとバーに潜入するが…。シークレットコードがリンゴジュースとか、マンゴージュースとか、それだけで可笑しい。そして、最後の大どんでん返し!

「銀座山」春風亭昇輔

息子が“吉幾三”を拾ってきて、飼いたいという。保健所送りにするのも可哀想だと、自宅でしばらくの間、飼うことにするが…。巡業中の北島三郎が譲ってほしいと訪ねてきて、吉幾三は東京へ。そして、演歌歌手から競走馬に転身して大儲けをするという奇想天外な出世譚が面白い。

「遺産相続」柳家花いち

自分が死んだときに妻と2人の子どもがちゃんと遺産相続できるか。それを練習するという男の発想がまず可笑しい。それも人気有名店に2時間並んで購入した限定1個のシュークリームをどう分配するか、だなんて!「たなからぼたもち」という言葉の分配で、妻が「たなから」より「もち」の方がいい!とか言い出すし…。

「予告編」三遊亭青森

「落語を完成させずに来た」、それは「お客さんの想像力に委ねる」ためで、お客さんがオリジナルのストーリーを作る余白を持たせ、脳内で完成品を作ってほしい、という前振りが青森さん独特で面白い。甘酸っぱい青春ラブコメディーと思いきや、生きるか死ぬかを競うサバイバルゲームとなり、やがて地球外生物と戦い、世界を救う戦闘モノになり…。僕と彼女とあいつの夏の物語。

「やごろう」林家彦いち

もうちょっと寝て、夢の続きを見たいという願望は誰にでもある。その発想を取り入れた彦いち師匠らしい一席に。オフロードバイクにタカシを乗せてマサルはどこまで走っていくのか?この夢のクライマックスに辿り着きたいと、釣りに行く車中も、友人が釣りをしている横に座っても、何度も眠り直す主人公が可笑しい。

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