「三人吉三巴白浪」三幕五場
歌舞伎座で二月大歌舞伎第一部「三人吉三巴白浪」を観ました。中村七之助のお嬢吉三、片岡愛之助のお坊吉三、尾上松緑の和尚吉三を中心に、名刀庚申丸と百両を巡る人間ドラマ。河竹黙阿弥が得意とする数奇で複雑な人間関係が絡み合って大変に面白かった。
まず、三人の吉三の出会いである。大川端庚申塚の場。美しい娘姿の盗賊、お嬢吉三と御家人崩れの悪党、お坊吉三が百両を巡って争っているところへ、通りかかったお坊吉三が仲裁に入る。三人が同じ名前なのを縁として、義兄弟の契りを交わすが、三人の周辺の人物を巻き込んで見えない糸で繋がっていくストーリーの始まりを象徴するシーンだ。
和尚吉三とお坊吉三。お坊吉三の父親は鑑定士をしていて、将軍から預かっていた名刀庚申丸が盗まれた。そのために父親は切腹、御家は取り潰しになってしまった。この庚申丸を盗んだのが、和尚吉三の父親の伝吉なのだ。伝吉はこの盗みを犯した帰り道に子を孕んだ雌犬を殺すが、これが後に因縁を呼ぶ。また、庚申丸は廻り廻って、序幕の大川端でお嬢吉三の手に渡る。さらに因果なのはお坊吉三が百両を奪って伝吉を殺してしまったということだ。伝吉という人物を囲うようにして三人の吉三が絡み合っているのが面白い。
次に、十三郎とおとせ。彼らは伝吉の双子の子どもで、つまりは和尚吉三の弟と妹になる。しかし、伝吉は十三郎をどこかの寺に置いてきてしまい、おとせだけを育てる。それゆえ、おとせは自分に双子の兄がいることを知らない。夜鷹となったおとせは、客として十三郎と出会い、やがては恋仲になってしまう。これが伝吉が雌犬を殺した報いだ。犬畜生にも劣る近親相姦に知らずになっていたという…。
これは今回の芝居では出てこないのだが、十三郎は奉公先の遣いで金を失くしてしまい、途方に暮れて川に身を投げようとしていたところを、伝吉に助けられている。それと、十三郎は夜鷹のおとせの処に百両を忘れてきてしまったが、それに気づいたおとせは渡してやろうと追いかけているところを、お嬢吉三に呼び止められて、あの大川端の場で百両奪われ、川に突き落とされてしまったのだ。十三郎、おとせ、お嬢吉三の関係性も興味深い。
そして、八百屋久兵衛の存在。大詰の本郷火の見櫓の場で三人の吉三から庚申丸と百両を受け取り、御家再興に走るエンディングの人物だ。この場面にしか登場してこないが、ストーリーの上では結構重要である。まず、久兵衛の息子がお嬢吉三なのだ。お七と名付け、幼い頃から女装させて育てていたが、やがて行方知らずになってしまった。お七は女形の役者を経て、盗賊としてお嬢吉三になっている。
それと、久兵衛は大川端でお嬢吉三に突き落とされたおとせを救出して、伝吉のところに連れてきている。また、伝吉に捨てられた十三郎を拾い子として育てたのも久兵衛だ。お七が行方不明になった代わりに、自分の息子のように育てた。そのおとせと十三郎が実は兄妹であり、今は恋仲になっていたというのも、何かの因縁なんだろう。
因果はめぐる尾車の…。河竹黙阿弥の名作を楽しんだ。
和尚吉三:尾上松緑 お嬢吉三:中村七之助 手代十三郎:坂東巳之助 おとせ:中村壱太郎 捕手頭長沼六郎:市村橘太郎 八百屋久兵衛:嵐橘三郎 堂守源次坊:坂東亀蔵 お坊吉三:片岡愛之助