日本浪曲協会二月定席千穐楽、そしてけんこう一番!

木馬亭で日本浪曲協会二月定席千穐楽を観ました。この日は、玉川太福先生の弟子である玉川わ太(わだい)さんの木馬亭定席初舞台とあって、多くの浪曲ファンが詰めかけた。芸の上では曽祖父に当たる玉川勝太郎の着物、祖父に当たる玉川福太郎の袴を身に纏っての高座。師匠の太福先生が2007年11月に木馬亭定席初舞台だとおしゃっていたから、それから15年目の弟子デビューである。わ太さんも緊張したろうが、師匠の太福先生もさぞ緊張したことだろう。何よりも初々しい姿を見るのは嬉しいことだ。

「阿漕ヶ浦」玉川わ太・玉川みね子/「塩原多助 江戸日記」東家三可子・伊丹秀敏/「ディアボロス生命株式会社」港家小ゆき・佐藤貴美江/「鈴木久三郎 鯉の御意見」玉川奈々福・沢村豊子/中入り/「青龍刀権次 召し捕り」玉川太福・玉川みね子/「小政の生い立ち」宝井琴柳/「糸車」澤順子・佐藤貴美江/「豊竹呂昇」鳳舞衣子・伊丹秀敏

わ太さん、元気いっぱいの高座。音が外れたところが何箇所かあったが、力で押し切った。三可子さんの偉人伝も、小ゆきさんの意欲的な新作も、皆良かった。こういう若い力に触れると生きる勇気をもらえる。

奈々福先生、ネタ卸しホヤホヤとか。講談でお馴染みの読み物の浪曲化。忠義の男・久三郎がなぜ家康の怒りを買う行いをわざとしたのか。諷諌(遠まわしの忠告)という言葉を初めて知った。

太福先生が権次の愛嬌あるキャラクターをコミカルに描き、愉しい。3年間濡れ衣で牢に入れられ、やっと娑婆に出られた権次は罪を押し付けた当人と出会うが、また名前を訊くのを忘れてしまう。その上、偽金を掴まされて、また逮捕されてしまうという…。

澤順子先生は山本周五郎の「日本婦道記」から。お高は養父に命じられて、勘定方頭取に出世した松本にいる実の両親のところに呼び戻され、温かくもてなされるが…。血は繋がっていないが一緒に苦楽を共にした育ての親と弟のいる松代の家族と暮らすことが本当の幸せだと考えるお高に共感する。

鳳舞衣子先生は、明治から大正にかけて女義太夫の頂点に立った女性の出世伝。呂太夫の芸に惚れこみ、仲子は大坂にいる師匠に弟子入りしたいと願う。我が子の希望を叶えたいと、母親は頭を丸め、水盃を交わし、相当な覚悟で名古屋から娘を送り出す。それに応えるように、仲子は喉から血を吐くほどの稽古を重ね、名人への道を歩む。その意気が素晴らしい。

夜は半蔵門に移動して、「けんこう一番!~三遊亭兼好独演会~」に行きました。この会は毎回音楽関連のゲストを招いているが、今回は「世にも珍しいトロンボーンとチンドンのユニット」佳代子と陽子。トロンボーン奏者の湯浅佳代子さんと「ちんどんバンド★ざくろ」主宰の織田陽子さんという編成だ。これで井上陽水「リバーサイドホテル」や都はるみ「好きになった人」などを演奏し、楽しかった。

兼好師匠は「犬の目」「だくだく」「火事息子」の三席。「犬の目」は目をくり抜いて洗うという荒療治が「いかがなものか」と苦情を言う人がいるが、そんな違和感を払拭する軽妙な高座だ。「だくだく」は八五郎が先生に自分の女房を描かせて、その絵といちゃつくところがとても可笑しかった。

「火事息子」で印象に残ったのは、勘当した息子の徳三郎に対し、父親が「私には子供がいませんが」と断りを入れて語るメッセージ。自分の息子がやりたい仕事をしっかりやっている姿を見ることが、その親にとって幸せなことだと思う。なりたくてなった臥煙なら、そんなに恥ずかしがることはない。堂々と胸を張っておやりなさい。

金や着物を与えることよりも、この温かいメッセージを贈ることが、父親の息子に向けた最高の愛情表現だと思った。形の上では勘当していても、やはり心の奥底では親子としての絆は断ち切れない。いや、寧ろ遠くから見ている方が愛情が深まるのかもしれないと思った。