よってたかって新春らくご、そして大相撲初場所十四日目
銀座ブロッサムで「よってたかって新春らくご」昼の部と夜の部を観ました。昼の部は、三遊亭萬橘、柳亭市馬、柳家喬太郎、桃月庵白酒。夜の部は、桂宮治、春風亭一之輔、三遊亭兼好、柳家三三というラインナップ。
萬橘師匠は「猫と金魚」。旦那と番頭の意思疎通が上手くいかない様子をマンガチックに描いて、面白かった。金魚と金魚鉢と水を別々に考えてしまうところ、棚に「上げる」のに、天婦羅として「揚げる」に解釈しちゃうところ、金魚の餌に猫を与えるというぶっ飛んだ発想をするところ等、田河水泡の作品にかなり独自のアレンジを効かせているので、爆笑を生む。
市馬師匠は「七段目」。ご自身が歌舞伎好きなのだろう、全編にわたって本格的。でも、やはり白眉は定吉のお軽と若旦那の平右衛門の掛け合いのところ。お囃子の恩田えり師匠の三味線も効果的に使って、芝居気違いを愉快に楽しく表現していて、気持ち良かった。
喬太郎師匠は「諜報員メアリー」。コロナもだいぶ収まってきたので、久しぶりに大学時代の落研仲間と飲んだというマクラから、この新作への流れがスムーズだ。金魚ならぬロブスター売りを操って、日本経済を滅茶苦茶にするというアメリカの秘密組織、でもNPO法人(笑)のナンセンスな陰謀がとっても良い。
白酒師匠は「不動坊」。吉公のお滝さんが嫁に来ると決まったときの浮かた様子、♬お嫁さんが来る~と唄にしちゃうのは師匠ならでは。湯屋で吉公の道連れにされちゃった人の好い男、「お滝!」との呼びかけに、「お前さん!」と返事をするトーンがどんどん上がっていくのが愉しい。後半、鍛冶屋の鉄さんの色の黒さを引っ張って、吉公の家の屋根の上でも、徳さんに「おぉ!いたのか!闇にまぎれて見えないんだよ!」と怖がられるのも可笑しい。
宮治師匠は「たらちね」。自分のところに、嫁が来る八五郎の喜びは、昼の部の白酒師匠「不動坊」に似ている。夫婦二人でお茶漬けを食べる妄想をユーモラスに演じる技術が巧みだ。その八五郎の一人気違いをしているところに、大家さんがお嫁さんを連れてきて、「あれがお前さんの亭主になる男だ」と言うのが可笑しかった。あまりに名前が長いので、「寿限無と一緒になればいいのに」と八五郎が言うのも笑った。
一之輔師匠は「天狗裁き」。お奉行様が大岡越前守で、「その夢の中身を知りたいから、この裁きを担当したのに」と言うのが可笑しかったが、さらに「上司の吉宗が(夢の話を)聞いて来いというんだよ。どうりゃあいいんだよぉ」で、それは爆笑になった。高尾山の天狗には、あまりにしつこいので、適当に嘘の夢を語る八五郎だが、天狗が納得しないと、「面倒な奴だな。お前、神様だろ!かかってこい!」とキレるのも面白かった。
兼好師匠は「辰巳の辻占」。芸者のお玉は金が目当てなのが見え見えなのに、彼女に入れあげてしまう伊之助の哀しさをユーモラスに描く。叔父さんが入れ知恵してくれた心中偽装作戦が失敗に終わっても、お玉の憎々しさとか、伊之助の間抜けさとか、男女の仲の愚かさとかを正面切って描くのではなく、軽妙に笑い飛ばすのは、師匠の真骨頂だろう。
三三師匠は「堀の内」。マクラで兄弟子のはん治師匠の粗忽について。小三治師匠の土踏まずマッサージエピソード、共産党の赤旗祭りの失敗談ともに可笑しい。八五郎が江戸中をウロウロして御祖師様に辿り着くまで、その前に上がった三人の高座の一部を巧みに取り入れて笑いに変換するテクニックはいつも上手いなぁと思う。
大相撲初場所十四日目。3敗で優勝争いに並んだ三人は…。まず、琴勝峰が終始攻めて、大栄翔を寄り切りで破った。続いて、阿武咲は立ち合い低く立ったところを霧馬山に突き落とされ敗戦。そして、貴景勝は結びの一番で、豊昇龍に厳しく当たり勝ちした後、すぐに左へいなしてはたき込み、勝利した。
これで、3敗は琴勝峰と貴景勝の二人となり、明日の千穐楽結びの一番で直接対決、勝った方が優勝ということになった。琴勝峰は前頭13枚目だから、異例のことだが、この取り組みは優勝争いを面白くするという点で、審判部は妥当な選択をしたと言えるだろう。貴景勝が大関の面目を保って、2020年九州場所以来、3度目の優勝を果たすか。それとも、琴勝峰が勢いに乗って、大関を破って初優勝を飾り、4場所連続の平幕優勝となるか。とても楽しみである。
ところで、十両14枚目の朝乃山が千代の国を寄り倒しで破り、13勝1敗とした。2敗で追っていた十両5枚目の金峰山が前頭15枚目の剣翔に寄り切りで敗れたため、十四日目で朝乃山の十両優勝が決まった。明日も朝乃山が勝って、14勝1敗の好成績を残せば、十両1場所で幕内に昇進する可能性が高まってきた。
2021年名古屋場所で、新型コロナウイルス対応ガイドライン違反で6場所の出場停止処分を受けて大関から陥落し、三段目から再出発した朝乃山だが、これで再入幕を果たせば、7場所ぶりの幕内復帰となる。今後、成績を伸ばして大関復帰はもちろん、さらにその上の横綱を目指して頑張ってほしいと思う。