貴景勝が大関の意地を見せた~大相撲初場所千穐楽

貴景勝が大関の意地を見せた。大相撲初場所千穐楽、結びの一番で同じ3敗の平幕・琴勝峰を下し、13場所ぶり3度目の優勝を飾った。

勝負は一瞬で決まった。立ち合い、貴景勝が当たり勝ちして前に踏み込むと、左を差して勢い良くすくい投げ。力でねじ伏せ、同じ埼玉栄高校の後輩を仰向けにして何も言わせない、番付の差を見せつけるような勝利だった。と同時に平幕優勝の連続記録を3場所でストップさせた意味は大きい。

125年ぶりの一横綱一大関という異例の番付。それに加えて、横綱の照ノ富士は膝の故障で初日から休場と、貴景勝が番付最上位として場所を引っ張らなければいけない立場に立った。その責任感を立派に果たした優勝とも言える。

序盤はプレッシャーとの戦いに苦労している様子が窺えた。初日は小結の若元春を終始攻め込んで押し出したが、二日目に小兵の翔猿にかき回されて、はたき込みで苦杯をなめた。しかし、三日目からは大栄翔、御嶽海、玉鷲、阿炎に得意の突き押しで寄せ付けない強さを見せた。

その後八日目以降も、翠富士に善戦を許すも最後は小手投げでねじ伏せ、錦富士戦も長い突っ張りの応酬になるもはたき込みで下すなど、十日目まで1敗で優勝争いのトップに立っていた。

様子が変わったのは、十一日目だ。突き押しを繰り出すも、琴ノ若の柔らかい身体に吸収されて、逆に押し倒されてしまった。さらに十二日目の霧馬山戦では足がついていかずにすくい投げを食らって、まさかの連敗を喫した。

先場所、決定戦で優勝は逃したものの優勝同点だったことから、「今場所で相当の高いレベルでの優勝をすれば、横綱昇進の可能性もある」ことを、八角理事長が示唆したことで、もしかしたら“横綱”の二文字が貴景勝の脳裏を横切り、相撲が委縮してしまったのかもしれない。

だが、心配はご無用だった。十二日目の時点で単独トップに立った平幕の阿武咲と十三日目に対戦。中学時代からライバルだった同学年対決で、激しい突き押しの応酬の末、貴景勝が大関の地力を見せて押し出しで下すと、本来の相撲が戻ってきた。

十四日目は左足首を負傷している豊昇龍を立ち合いのぶちかましから、即座にはたき込みで勝利。そして、千穐楽の琴勝峰との相星決戦でも大関の実力を見せつける勝利で賜杯を手にした。

さあ、次の大阪場所で綱取りのチャンスが到来する。2度目の優勝をした2020年九州場所の次の初場所では、何と初日から4連敗をして、十日目からは左足関節靭帯損傷で休場してしまい、綱取りは完全に失敗した。

押し相撲は好調不調の波が激しく、安定した成績を残せないと昔から言われる。照ノ富士は膝に爆弾を抱えており、いつ出場できるか目途も立たない状態であるため、相撲協会としては次の横綱の誕生を待ち望むところだと思う。だが、貴景勝が横綱になったとしても、やはり安定した成績を残せないとすると、短命な横綱を作ってしまうことにもなりかねない。押し相撲を中心にしながらも、四つに組んでも勝てるような取り口を磨くことが求められる気がする。

今、大関もたった一人。次に大関に昇進する期待の力士が何人もいる。今場所11勝を挙げて技能賞に輝いた霧馬山。今場所は9勝に終わったが、頭をつけておっつける相撲が光る若隆景。その兄でやはり相撲が上手く、粘り腰の若元春。さらに大器と呼び名が高い琴ノ若。今場所、強引な相撲で怪我を招いたが、驚異的な運動神経を持つ豊昇龍。これらの中から、1人でも2人でも早く図抜けた成績を残し、大関が誕生するのを待つことが先決であるような気もする。

今場所は貴景勝が優勝したが、来場所以降も優勝争いは混戦が続くものと予想される。その混戦の中から誰が飛び出してくるか。しばらくは毎場所の優勝争いを楽しみながら、実力をぐんぐん伸ばし、安定した好成績を残せる力士の登場を待ちたいと思う。