通し狂言「遠山桜天保日記」

国立劇場初春歌舞伎公演に行きました。国立劇場の初芝居は例年、いわゆる“菊五郎劇団”による上演となっている。今年も尾上菊五郎の遠山の金さんである。「遠山桜天保日記」は2008年12月に歌舞伎として半世紀ぶりに、原作を大胆にアレンジして上演、今回はそれ以来、14年ぶりの再演だとプログラムに書いてあった。そして、1966年に開場した国立劇場は機能強化のために、今年10月末をもって閉場し、建て替えられる。この初芝居も再建されるまで、7年ほど観られなくなるのが残念だ。

通し狂言「遠山桜天保日記」~歌舞伎の恩人・遠山の金さん~六幕十一場

遠山金四郎:尾上菊五郎 角太夫女房おもと:中村時蔵 生田角太夫:尾上松緑 尾花屋小三郎後に羅漢小僧小吉:尾上菊之助 佐島天学:坂東彦三郎 遠山家用人樋口善之助:坂東亀蔵 政五郎養女おわか:中村梅枝 若太夫河原崎権三郎:中村萬太郎 捕手頭佐藤清介:市村竹松 待乳山のおえん:尾上右近 楽屋番紋助:市村光 八州廻り宮森源八:尾上左近 河原崎座役者:坂東亀三郎 尾花屋丁稚辰吉:尾上丑之助 河原崎座役者:寺島眞秀 同:小川大晴 笛方六郷新三郎:市村橘太郎 尾花屋番頭清六:片岡亀蔵 須之崎の政五郎:河原崎権十郎 行形亭女将お滋:市村萬次郎 遠山家家老蓑浦甚兵衛:坂東楽善 羅漢尊者:市川左團次

この芝居の主役は菊五郎演じる遠山金四郎かもしれないが、全体を通して柱となっているのは三人の男である。菊之助演じる小三郎後に羅漢小僧小吉、松緑演じる生田角太夫、そして彦三郎演じる佐島天学だ。この三人が時と場所と、そして名前と立場を変えて共謀したり、対立したりするところが、この物語の面白さだと思った。

花川戸の稽古所で、尾花屋の若旦那・小三郎は恋仲の清元の師匠・おわかと縁切りを言い渡される。尾花屋の跡取りの女房に芸人は相応しくないと考える両親の根回しで、おわかの養父である須之崎の政五郎が言い渡したのだ。

それでも諦めきれない小三郎とおわかは、三囲堤で隅田川に身投げして心中してしまう。この三囲堤がキーマン3人の最初の因縁の場所となる。ここで、短筒強盗をしていたのが、生田角太夫。そこを通りかかったのが、隠れて吉原通いをしていた僧の佐島天学。角太夫は天学を襲い、金を強奪した上、短筒強盗犯の濡れ衣を天学にかぶせて、逃げてしまう。そして、その罪をかぶった形の天学は牢に入れられてしまう。

で、心中した筈の小三郎は死にきれずに生き延び、羅漢小僧小吉と名を改め、悪党になっていた。また、天学も牢を抜け出していた。そして、安房山中で角太夫含めた三人は出会い、身の上を語り合う内に意気投合する。キーマン3人因縁の場所の二か所目は、この安房山中だ。彼らは佐渡金山の御用金強奪を企み、成功したら山分けしようと、義兄弟の盃を交わすのだ。

そして、政五郎江戸別宅。元小三郎の小吉が訪ねる。驚く政五郎。小吉はおわかとの縁切りの恨み言を言い、強請る。政五郎は動じずに、おわか供養の名目で金包みを渡す。次に訪ねてきたのは、按摩の電庵、実は変装した角太夫。揉み療治をしている最中に、おわかの実母であるおもとが来る。政五郎は養女のおわかの死後、おもとを生活面でサポートしているのだ。だが!おもとは角太夫の元女房、つまりおわかの実の父親だったのだ。政五郎とおもとの会話から角太夫は女房子の悲しい末路を知ることになる。これも因縁だ。

続いて、尾花屋裏手。電庵実は角太夫と、藤村浦太実は天学が共謀して、尾花屋に強盗に入る。そこで、番頭の清六が吉原の久喜万字屋の花魁・若紫(実はおわかも心中から生き延びて、花魁になっていた!)に入れあげ、今夜も店の金を持ち出し、出かけようとするところ、悪党二人組に捕まり、金を巻き上げられ、さらに共犯者にされてしまう。そこへ、小吉が現われ、尾花屋は自分の実家だと言う。おお!これが3人の因縁の場所の三か所目だ。

おもとは按摩が失踪している夫と判ったので、角太夫の後を付けていた。そして、他の2人がいなくなった後、改心を迫る。元は下総国結城の武士、それが身を崩したのが角太夫なのだ。二人は揉み合う。そして、角太夫はおもとの首を絞め、殺してしまう…。

六地蔵河岸の場。天学が小吉に本心を打ち明ける。佐渡金山の御用金強奪が成功したら、角太夫を亡き者にして山分けしようと持ちかける。天学は短筒強盗の濡れ衣をかぶされたことを許していなかったのだ。しかし、小吉は拒否する。すると、天学が斬りかかる。そこへ侠客の殿様金次が通りかかり、小吉を助ける。桜吹雪の刺青を見せると、天学は逃げてしまった。

で、新潟の茶屋。奥州屋善兵衛実は角太夫と奥州屋番頭八右衛門実は天学が御用金強奪の前祝いをしていた。そこへ、御用だ!の声。捕り方に囲まれる。逃げる二人。天学と角太夫は争い、天学が角太夫を海へ突き落してしまった。

そして、お白州である。御用金強奪と角太夫殺しの詮議だ。天学は短筒強盗で冤罪になったことを盾に、身の潔白を主張する。だが、おわかを吉原に売り飛ばした罪は逃れられない。さらに、北町奉行の遠山金四郎が現われ、桜吹雪の刺青を見せる。殿様金次が遠山金四郎だったのだ!さらに、死んだ筈の角太夫、おもとも現れ、今後は夫婦仲良く堅実な人生を歩めと諭す。小三郎と若紫実はおわかも登場し、所帯を持てと言う。名奉行は斟酌すべき事情を全てお見通しだったという、名裁き。遠山の金さんはおわかの清元の弟子だったことまで判って、大団円となった。

菊之助の小三郎、松緑の角太夫、彦三郎の天学。この3人を軸にして観ると、実に痛快な面白い芝居だった。