花街模様薊色縫「十六夜清心」

「壽初春大歌舞伎」第三部に行きました。今月の興行は第一部から第三部まで、「弁天娘女男白浪」「人間万事金世中」「十六夜清心」と河竹黙阿弥作品が並んだ。今年は没後130年に当たる。黙阿弥調とも呼ばれる七五調に彩られた芝居台詞に特徴があり、世話物狂言、中でも白浪物で本領を発揮したことは素人の僕でも存じあげているところだ。令和の現代でも楽しく歌舞伎を鑑賞できることに河竹黙阿弥が大きく貢献していることは間違いない。

花街模様薊色縫 通し狂言「十六夜清心」三幕五場

極楽寺所化清心後に鬼薊の清吉:松本幸四郎 扇屋抱え十六夜後におさよ:中村七之助 俳諧師白蓮実は大寺正兵衛:中村梅玉 白蓮女房お藤:市川高麗蔵 恋塚求女:中村壱太郎 下男杢助実は寺沢塔十郎:中村亀鶴 佐五兵衛後に道心者西心:松本錦吾 船頭三次:市川男女蔵

いやぁ、黙阿弥の筋立てのトリックに見事に引っ掛かった。幸四郎演じる清心と七之助演じる十六夜の悲しいラブストーリー?と思っていたら、さにあらず。大泥棒の物語とは。清心、十六夜が盗賊になっていたまでは織り込み済みだが、梅玉演じる白蓮が3000両の盗みの犯人だったとは!見事に騙されましたわ。

稲瀬川百本杭の場。女犯の罪で極楽寺を追放された僧・清心と、その噂を聞いて廓を足抜けしてきた遊女・十六夜の再会。一緒になれないなら身投げして死ぬという十六夜に、清心も覚悟して心中を決意して一緒に稲瀬川に飛び込む。ここまでの二人のお互いを思いやる気持ちのやりとりを退廃的な美しさというのであろうか、墨絵を描くように表現する幸四郎・七之助コンビが良かった。

だが、身投げした二人は死ななかった。別々に助かる。十六夜は舟遊びをしていた白蓮の船の網に引っ掛かり、救助された。元々十六夜の馴染み客だった白蓮はこれを機に身請けして、妾にする。

一方、清心も水練に長けていたので、死に損なう。岸に上がった清心は、偶々そこを通った寺小姓の恋塚求女(実は十六夜の弟だった!というのも黙阿弥らしい設定)が癪を起したのを介抱してやると、懐に50両という大金を持っていたので奪おうとする。奪うだけと思っていた清心だが、誤って求女を殺めてしまう。清心は十六夜と併せて2人を殺したことになったと思い、罪人として追われる身なら、いっそのこと悪党になってしまえ!と、これを機に盗人に。鬼薊の清吉の誕生だ。

十六夜は白蓮にあてがわれた妾宅に住むが、毎晩のように死んだ(と思っている)清心の位牌を拝んでいる。これを不思議に思った白蓮が事情を問い質すと、十六夜は経緯を話す。理解のある白蓮は路銀を渡し、十六夜は供養の旅に出る。この妾宅の場で白蓮女房お藤が、十六夜の清らかな心に感心し、義姉妹の固めの盃を交わすのも面白い。

この後、今回の芝居ではカットされているが、十六夜が山賊に拐かされたのをきっかけに、盗人の仲間に入り、そこで鬼薊の清吉(元の清心)と出会うのも面白い。十六夜もおさよと名を改めている。

で、清吉&おさよの悪党コンビが昔世話になった白蓮宅を訪れ、強請り騙りをするという、冒頭の心中のコンビとは思えない変貌ぶりが実に興味深い。この強請りに、白蓮はドーンと構えて、100両をポン!と渡す。動じない。その100両包みの封印は、極楽寺で盗まれた3000両と同じ封印!気が付いた清吉はビックリするが、俳諧師白蓮とは世を忍ぶ仮の姿、実は大泥棒の大寺正兵衛だったのだ。それに加えて、清吉と正兵衛は実の兄弟だったことも判明。何ともはや、河竹黙阿弥の筋立ての上手さに拍手喝采の舞台であった。