神田伯山「天明白浪伝」連続読み(弐)

「神田伯山 新春連続読み 天明白浪伝」三日目へ行きました。今日は第五話から第七話まで。昨日、第一話から第四話までにそれぞれ登場した、神道徳次郎、稲葉小僧、金棒お鉄、むささびの三次が絡み合って物語が展開し、連続読みの真骨頂ここにあり、という感じだ。兎に角、面白い!の一言。

第五話「むささびの三次~召し捕り」。盗人同士の助け合いもあれば、悪党同士でいがみ合い、裏切り、貶めることもあるのだなあと知る。金棒お鉄が仕切っていた品川の女郎屋、若鶴屋にむささびの三次が偶然、客として入ったのも運命なのか。お鉄が「こいつは悪党の匂いがする」と勘づき、同心へ通報、三次が召し捕られるとは。

前段、若鶴屋の主人が亡くなり、お鉄が女将として採用されてから、商売が繁盛した理由もすごい。お茶を挽いた女郎には、罰として尻に焼け火箸で印を付けるというのだから、お鉄のやり口は相変わらず非情だ。女郎たちは尻に火傷の跡を何個も付けられては堪らないから、必死で客に馴染みになってもらおうとする。このあくどさが、金棒お鉄と仇名される由縁なんだろう。

むささびの三次は召し捕られても、第四話で読まれた稲葉小僧新助と共に寺の住職を殺して80両を強奪した件について、共犯者の名前を決して明かさなかった。これが盗人仲間の友情なのだろう。「新」がつく名前というところまで奉行が探ると、三次は「薪屋の新兵衛」だと虚偽の証言をし、新兵衛は牢の中で脳卒中で死んでしまうのも可哀想な話だ。

後に、稲葉小僧が若鶴屋に押し入り、金棒お鉄を斬り殺すが、ここの場面は陰惨なので松鯉先生は台本では全面カットしたそうだ。

第六話「悪鬼の萬造」。神道徳次郎が主人で、八百蔵吉五郎が番頭で、小間物屋を営んでいた。それは世間の目を誤魔化すための仮の姿で、徳次郎は上総屋長兵衛と名乗り、この店に働く者は全員盗人というのも面白い。

それを知らずに、盗みに入った男たち。ここで徳次郎は正体を明かし、堅気になれと50両を渡す。カッコイイ。助けられた犬神の半助と悪鬼の萬造は王子で女郎屋を経営し、これで上手くいきましたで終わらないのがこの物語の肝だ。

萬造の方が吉原に入り浸りになり、呆れた半助は店を畳んでしまう。これに怒った萬造は徳次郎を訪ねるが、逆に説教されてしまう。逆上した萬造は同心の小林平八郎に密告し、徳次郎はピンチに立たされるが…、で第七話へ。

第七話「首無し事件」。まさに、ミステリーの謎解きを聴いているかのようで、ゾクゾクする面白さがある。駕籠屋のおしゃべり三太が“怖ろしい事件”を話すと、侍を装った神道徳次郎はスパッと事件の真相を見抜くのがすごい。伴の侍も、実は稲葉小僧という、知っている人物がこのように絡み合ってくると読み物はどんどん面白くなっていく。

浜松の質屋、四方田屋の娘おもよと、寺のイケメン住職が不義密通をしていたことがわかるからくりが愉しい。間男されていた婿の小間物屋の十兵衛はとても可哀想だが、最後にはこの盗人2人によって事件を解き明かされ、溜飲が下がる思いだったろう。

おもよと住職の犯行を徳次郎が暴く。この中に、おしゃべり三太、ぼけ役の稲葉小僧、純朴な十兵衛がコミカルを加味して、とても楽しいエンターテインメントに仕上がっていると思った。