歌舞伎鑑賞教室「彦山権現誓助剣 毛谷村」気は優しくて力持ち。いざ、六助は一味斎妻子の仇討に!

国立劇場で「歌舞伎鑑賞教室 彦山権現誓助剣~毛谷村~」を観ました。(2022・06・19)

主人公の六助は気は優しくて力持ちというのはこういう人のことをいうのだと思った。

吉岡一味斎から剣術の秘伝を受け、「自分に勝った者に奉公する」と誓ったため、領主から仕官を望まれるも、断り続けていた。それがために、剣術指南役を求める領主かは「六助との試合に勝った者は召し抱える」というお触れが出たのだ。

六助は毎日、亡くなった母の墓参りをしている。そこへ、老婆を連れた浪人・微塵弾正が墓所を通りかかる。病で余命少ない母に楽な暮らしをさせてあげたい、ついては試合で勝ちを譲って仕官を叶えてほしいと六助に懇願する。母への孝心に共感した六助は快諾する。この男が実は、一味斎を殺した京極内匠だったとは知らずに…。

数日後に六助の家で、領主から遣わされた検分役立ち合いのもと、六助と弾正の試合が行われる。約束通り、六助は弾正に勝ちを譲る。仕官の決まった弾正が六助を侮辱し立ち去るが、人の好い六助は恩知らずな仕打ちに怒るどころか、これで弾正の母も喜ぶだろうと満足するのだ。

六助の優しさはもう一つ。幼い弥三松と老人が山賊に追い立てられ、老人は弥三松をかばって、山賊に斬られてしまうが、六助は山賊を蹴散らす。瀕死の老人は主人の家の子である弥三松を六助に託し、息を引き取る。見ず知らずの幼子を預かることにした六助。実はこの弥三松は一味斎の娘お菊の息子、つまり孫だったことが後で明らかになる。

弥三松の縁者が来た時の目印にと、六助は門口の物干し竿に弥三松の着物を掛ける。それに気づいた虚無僧。跡をつけてきた男たちが襲いかかるが簡単に追い払う。怪しむ六助に対し、笠を外した虚無僧の正体はお園という女性だ。家来の敵と思い、六助に斬りかかるお園に弥三松は「伯母様!」と呼んで駆け寄る。そうなのだ。お園は一味斎の娘、お菊の姉だったのだ。

事情を知ったお園は急にしおらしくなる。お園は六助の許婚だったのだ!一味斎を殺した京極内匠を、残された一味斎の妻のお幸と娘のお園が敵討ちの旅の途上なのだ。お菊は敵の返り討ちで命を落とし、その息子が弥三松なのだ。

先に六助住家を訪ねてきた老女がお幸。一味斎の形見の刀を六助に授け、一家再会の喜びのもと、六助はお園と婚礼の盃を交わす。運命である。

そして、微塵弾正を名乗っていた京極内匠の悪事が露見する。木こりたちが仲間の斧右衛門の母の遺体を戸板に乗せてやってきた。見れば、遺体は墓所で弾正が「母」として連れていた老婆だ。弾正は斧右衛門の母を仕官のために利用し、口封じに殺したことが判明する。

真相を悟った六助は弾正の非道さに激怒する。そして、弾正こと京極内匠に仇討するべく立ち上がるのだった。気は優しくて力持ち、毛谷村六助だが、憤りは凄まじく、片足で大きな庭石を地面にめり込ませるほどというのが歌舞伎らしくて良い。

毛谷村六助:中村又五郎 樵人斧右衛門:中村松江 微塵弾正実は京極内匠:中村歌昇 一味斎孫弥三松:小川綜真 一味斎後室お幸:上村吉弥 一味斎娘お園:片岡孝太郎