古今亭駒治「ひろしのおっかけ音頭」同じ生きがいを持った同士、いがみあったりしても実は仲良し

西巣鴨スタジオフォーで「駒治伝説」を観ました。(2022・06・25)

この会は古今亭駒治師匠が新作落語を2席ネタおろしする隔月の会だ。その精力的な創作意欲に圧倒される。

「ふたりの秘密」は、鉄道マニアの少年が同じく鉄道マニアのおばあちゃんと出会う噺だ。場所は本屋。陰に隠れてこそこそと「鉄道ジャーナル」を買おうとしているところをクラスメイトの女子に見つかってしまった少年は、そこで偶然に出会ったおばあちゃんに誘われ、自宅に案内される。

何の変哲もない一室が、ボタンを押すと鉄道グッズに彩られた部屋に一変。「これはおじいさんには内緒にしているのよ」と、家族には秘密にしていることを明かす。鉄道マニアは世を忍ばなくていけない運命にあるのか。そこを誇張している駒治師匠の創作が面白い。

そこに現れたおじいちゃん。突然の帰宅に慌てたおばあちゃんだったが、おじいちゃんは昔から彼女が鉄道マニアであることはお見通しだった…。自身が鉄道マニアである駒治師匠のあらゆる角度から創作される鉄道落語は今後も尽きることがないだろう。

二席目は「ひろしのおっかけ音頭」。駒治師匠がある演歌歌手のコンサートに行って、魅了されたことを題材にしたという。

「こおりかわひろし」(笑)の追っかけをしている二人のおばちゃんのライバル物語といったところ。会員番号2番の佐藤さんと、3番の田中さんが競う。「ひろしが私に向かって微笑んでくれた回数」とか、「ひろしが握手会で私の手を握ってくれた秒数」とかを自慢したり、嫉妬したり。

二人の仲は悪いようだが、ひろしを巡って友達になっているというのが、この噺の味噌だなあと思った。喧嘩するのも、仲が良いからに違いない。

会員番号1番のおばあちゃんは、既に亡くなっているのだが、幽霊として二人の間に現れる。そして、そんないがみ合いはよしなさいと諭す。だって、ひろしを愛しているという点においては共通しているのだから。

この日に聴いた新作ネタおろし2席は、どちらも何かに夢中になる人への讃歌のように思えた。夢中になるって、素晴らしい。