神田紅純「夫婦餅」改心して、真面目に働く。周囲の支えがあることを決して忘れてはいけない。

上野広小路亭で「新鋭女流花便り寄席」を観ました。(2022・06・24)

神田紅純さんの「夫婦餅」が良かった。

相撲好きという道楽で身を滅ぼすが、最後に奮起すればハッピーエンドという読み物だが、そこには支援してくれる女房や旦那がいたからこそという思いに駆られた。横綱・梅ケ谷の温かい気持ちも忘れてはなるまい。

玉川屋という菓子屋。幸助が芸者のお玉を身請けして、夫婦二人で営んでいる。だが、幸助の欠点は相撲道楽。贔屓の力士に祝儀を切って、遊ばせてしまい、散財してしまう。とうとう、どうしようもなくなった。

お玉は再び芸者になって金を作る。芸者置屋の橘屋の新兵衛の心遣いで50両が手に入った。これで真面目に小商いをするのだぞ、と新兵衛にも、お玉にも言われ、自分も心を入れ替えて商売する決心をする。

だが、帰り道。幸助は贔屓の梅ケ谷に出会う。弟子が出世したと聞き、喜ぶ。料亭で祝おうとなり、祝儀を切り、お玉がこしらえた50両はあっという間になくなってしまった。幸助の改心はそんなに簡単に覆ってしまうものなのか。だめだなあ、と思う。

事情を正直に新兵衛に話す幸助。梅ケ谷のところへ行って、頭を下げて50両の返金をお願いする。だが、梅ケ谷はそれを拒む。何と冷たい男なのか。そんな曰く付きのお金であることを承知した上で拒否するなんて、どこが天下の横綱だ、と思う。

太っ腹なのは新兵衛だ。今度こそ、真面目に働くのだぞ、と言い含め、支援をする。幸助だってわかっている。これで道楽に走ったら、人間じゃない。真人間になろう。お玉と「夫婦餅」と名付けた菓子を考案し、商売を始めることにした。

その開店の日。両国広小路の店に米俵と小豆俵が大量に届いた。そして、東西の幕内力士が勢揃い。梅ケ谷を先頭に祝いにきたのだった。

あのとき、50両の返金を拒んだのは、幸助の評判を落とさないようにと配慮したためだったと告白。新たに50両を開店祝いの祝儀として贈った。そして、梅ケ谷の口添えもあり、店は評判を呼んで、繁盛したという。

世の中は人の情けが入り混じって出来上がっている。一生懸命に働いていれば、必ずや見ている人は情けをかけてくれる。情けを頼りにするのではいけない。努力のあとに、情けはついてくるのだ。そんなメッセージが籠められているような読み物だった。