田辺凌天「般若の面」何事も一所懸命な気持ち、真っ直ぐな心が大切と教えてくれる
上野広小路亭で「新鋭女流花便り寄席」を観ました。(2022・06・24)
田辺凌天さんの「般若の面」が印象に残った。
夜逃げしようかと相談するほど借金に苦しんでいた両親を見て、自ら奉公に出ると言い出した娘のお定の甲斐甲斐しさ。奉公先では女中として良く働くと評判になるほどの一所懸命さに感心する。
一日働いた後、女中部屋で自分の箱を取り出し、寝る前に「おっかあ、おやすみなさい」と言うのが日課だ。母親の名前がおかめというので、おかめの面を箱に入れて一日の報告をするのだ。なんとも親思いの娘ではないか。
このお定の行動に興味を持った奉公先の旦那のいたずら心が働いたのが発端だ。このおかめの面を般若の面に取り替えて、お定をビックリさせようと考えたのだ。だが、それは逆にお定を不安にさせてしまった。「こんな怖い顔をして、おっかあは病気で苦しんでいるに違いない」。
奉公先を出て夜道を歩き、実家に向かう。途中、金毘羅堂の前で焚火をしている男に出会った。火が付かないから、手伝ってくれという。お定は熱いので、持っていた般若の面をつけて点火をする。それを見た男は、鬼が出た!とビックリして大きな声を上げる。金毘羅堂の中では、男たちが博奕の最中。「手入れが入った!」と思い、男たちは金をお堂に置いたままに逃げてしまった。
何も知らないお定は、実家へ。驚く両親。お定は母親に身体に何事もないことに安心した。旦那に何も断らずに奉公先を出てしまったことを気にかけ、きっと心配しているだろうと翌朝早くに父親がお定を連れて奉公先に戻す。
その途中の金毘羅堂には、博奕の金が175円余り。父親が発見すると、お定が事情を話し、持ち帰って届けることにする。奉公先に到着。案の定、店ではお定の行方を心配していた。事情を訊いて、旦那は一安心。そして、いたずらをして般若の面に取り替えたことを詫びる。
そして、金毘羅堂に散乱していた博奕の金のことも話す。奉行所に届けるが、当然博奕をしていた男たちが言い出すわけがない。一年が経って、その金はお定とその両親の元にお下げ渡しとなった。
これで借金も返すことができ、貧乏暮らしから抜け出すことができた親子3人。お定は親孝行をして仲良く暮らしたという物語。旦那がいたずら心を起こしたことは良くないが、その結果、お定たち家族が幸せに暮らすことができたのだから、良かった、良かった。何事も正直な心が大切、一所懸命な気持ちが大切ということを教えてくれた読み物だった。