黒澤明vs.勝新太郎 「影武者」主役降板劇の裏には二人の天才のせめぎ合いがあった(6)

NHK総合の録画で「アナザーストーリーズ 天才激突!黒澤明vs.勝新太郎」を観ました。

きのうのつづき

自分のイメージを保つには一切の妥協をしない。その点で、二人の天才は同じだった。うまく二人の違いを生かせれば、素晴らしい化学反応が起きていたかもしれない。

番組の第三の視点は「破局は避けられなかったのか」。二人を良く知る人物のインタビューを構成して、この問題と向き合っている。

映画評論家の白井佳夫。黒澤と勝、どちらとも腹を割って話せる間柄を築いていた数少ない人物だ。「キネマ旬報」の編集長も務め、日本映画を半世紀にわたって見続けてきた白井は、黒澤の厳しい現場への立ち入りを許された一人だ。

白井が語る。

全部が自分の方を向いて、自分の意思を理解して、そのくらいの集中力を皆が持っていないと黒澤さんは自分の映画を撮れない。

そして、白井は勝とも取材を通じて友人になった。

「こないださあ、撮影所の中を綺麗な女が歩いていたんだよね。あんまり綺麗なんで、後をつけて行ったらさ、(中村)玉緒でやがんの」って。結婚して2か月くらいの玉緒に対するのろけですよね。

黒澤と勝。二人をよく知る白井はこの破局をどう見たのか。

「影武者」は勝新太郎降板の後、仲代達矢が代役を勤め、第33回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。興行成績27億の大成功を収めた。しかし、白井はそれを手放しでは喜べないと言う。

日本映画の悲劇というかね。黒澤の悲劇というかね。黒澤映画には今までなかった、勝新太郎みたいな横紙破りな天衣無縫な笑いをとれる人が。黒澤さんの方もそれを理解してそれを取り入れた映画を作れたらね。両者にとって今までなかった新しい日本映画が出来た気がする。

その悲劇を避ける術はなかったのだろうか?

その中間に立って、調整する人がいなかったんだ。プロデューサーですよ。「勝新太郎ってこういう人ですけど、こういうところに気を付けてやれば、いい演技しますから」「黒澤さんって、絶対的にイメージを持っていて、それに映画を近づけたいという人なんだから、勝ちゃんみたいに俺の思う通りにやっていいだろうっていうのは通じないんだよ」。そうやって、両者をアレンジできるプロデューサーが不幸にしていなかったんでしょうね。

二人をつなぐことができた人物は一人しかいないと白井は言う。その名は本木荘二郎。

「七人の侍」とか「生きる」の頃の黒澤映画を作っていた。一緒になって、どんな作品を作るか考えたり、どんな俳優を使うか考えたりできるプロデューサーだったんです。

本木は三歳年上の黒澤と東宝に所属していたが、自由な映画製作を求め、ともに東宝を飛び出したこともあった。しかし、本木は後に横領事件を起こし、黒澤の元を去った。

「俺は本木荘二郎プロデューサーがいなきゃ映画撮れないよ」と黒澤さんは言っていました。のちに、「俺にはどうしようもなかったよ」と僕に言っていましたけれど。

野上照代にそのことをぶつけてみた。

白井さんは甘いよ。片方はうまくいくかも分からないけど、黒澤さんを説得するのは、あの件に関しては無理。(黒澤)先生は勝さんのことを知らなかったんですよ。不勉強だった。

つづく