黒澤明vs.勝新太郎 「影武者」主役降板劇の裏には二人の天才のせめぎ合いがあった(4)
NHK総合の録画で「アナザーストーリーズ 天才激突!黒澤明vs.勝新太郎」を観ました。
きのうのつづき
勝新太郎の前のめりぶりを目の当たりにした人がもう一人いる。テレビ版「座頭市」の脚本を担当していた中村努だ。
何の意識もなかったんですけど、「黒澤さんとは喧嘩したらあきまへんで」って言うたんですよね。そしたら、勝さんがニコーッと笑って。
中村が黒澤と勝の喧嘩を心配するのには理由があった。ひとつは勝の性格だ。
若山(富三郎)さんが子供の頃ですよ。若山さんが積み木を積み上げたら、勝さんがそれをじーっと横で見ていて、ちゃんと出来たときに、走ってきて、めちゃくちゃに壊すと。勝さんは人がちゃんと作り上げたものは気に入らないと、みんなぶっ潰す。ばらばらにしてしまう。
定石を壊す。それは勝のモノづくりに反映する。例えば、中村が書いた脚本も。
恥かいたなというのは、森繫(久彌)さんとの「座頭市」がありましてね。呼ばれて、「こいつがホン(脚本)を書いた。でも使わないよ」って言って、ごみ箱に入れられましたからね。
脚本はあっても無視。現場の感覚に任せて、即興的に演出する。そんな乱暴なやり方で生まれた傑作もあった。
病で死が近い少女と市の淡い恋を描いた叙情的な作品。脚本は一応、中村となっているが。
女優さんは原田美枝子。初めてですよ。「お前、今どこ行きたい」って、勝さんが聞いたわけね。「海に行きたい」「おう、行こう」。そのまま日本海の方へ行って、そこでセリフを作って、場面を作って、勝さんがね。ホン(脚本)なんかゼロですよ。
勝は現場のインスピレーションで物語を紡ぎ出した。撮影前の勝の説明が録音テープに残されていた。
絵を描こうと思って座頭市を見ている目。この世の別れみたく、市を永久に見つめていたいっていう目を撮りながら、ここへ天女様が出てくる。座頭市は「こいつはうまく描けているな」。今の会話のときに、二人だけの世界の向こうにドスがピカッと見えて、向こうからガラッとヤクザが入って来る。だからと言って、この会話のリズムとメロディは壊れないで、この二人だけの会話があるわけ。
弟子の谷崎弘一が語る。
ドラマが完成すると、全く最初の話とは違いました。脚本がまるきり出来上がったら、ビックリしていました、みんなが。
脚本家の中村努が言う。
すごいなと思いましたよ。ああいう絵(映像)はいいなとかね。ああいうセリフはいいなとか。私も無責任といえば無責任だけれども、すごいなと思いましたよ。
つづく