黒澤明vs.勝新太郎 「影武者」主役降板劇の裏には二人の天才のせめぎ合いがあった(3)

NHK総合の録画で「アナザーストーリーズ 天才激突!黒澤明vs.勝新太郎」を観ました。

きのうのつづき

事態はいよいよ急を告げる。「影武者」の主役、勝新太郎にも黒澤に退けもとらぬ映画の愛情があった。勝の側に側に立つとまた違うものが見えてくる。

番組の第二の視点は、「すれ違う二人の思い」。勝の弟子だった谷崎弘一ら、常に勝の傍にいて巨匠・黒澤明に挑む熱い思いを間近に見た人間たちの証言を基に、桁外れの大スター、勝新太郎のその秘めた情熱を紐解く。

事件の流れを勝の側から見ていく。事件2か月前の現場に、信玄に扮する勝と、その弟子の谷崎の姿がある。鎧兜に身を固めた堂々たる貫禄の勝。余裕しゃくしゃくで演出する黒澤。この二人を見た、谷崎は語る。

いや、これはすげえや。これはえらい作品が出来るんじゃないか。世界の黒澤さんが撮って、役者・勝新太郎が大きく羽ばたくんじゃないかと思った。

だがこのとき、すでに歯車は狂い始めていた。

勝は長唄三味線方の家に生まれ、23歳で映画俳優に転じた。そして、31歳のとき、大ヒットシリーズを生み出す。「座頭市」だ。目が見えないというハンディを背負った主人公を勝は見事に演じた。

36歳で勝プロダクションを設立し、社長に就任。テレビシリーズとなった「座頭市」では、たびたび監督や脚本もこなした。「座頭市」は5年間で100本を量産。勝は次に進むべき道を模索していた。世界の黒澤からオファーが来たのはそんなときだった。

谷崎が語る。

「今度、黒澤さんとやるからな。面白くしてやる」なんて言ってましたけどね。武田家に関するもの、読んで、見て、調べて、自分なりの信玄を作り上げようとなさっていた。

勝の入れ込みようは、とどまることを知らなかった。

「座頭市」の現場が進まない。なぜかと言うと、「影武者」の話をしたくて、「座頭市」の撮影を忘れちゃうんです。現場も「すいません。夕飯になりますから、撮っていただきます」「しょうがねえ、撮るか」。

「影武者」の衣裳合わせは「座頭市」の撮影の隙間を縫っておこなわれた。

黒澤さんのイメージで、いろんな衣裳をね。師匠(勝)は「これ、もういいから。もっと違うやつないかな?」とか。「これ、いいんじゃない?」とか、機嫌よく二人でね。黒澤さん一生懸命に襟元とか触ってますけど、黒澤さんは「らしさ」を出したいんですよね。襟元をきしっと合わせたりとか。師匠(勝)も「らしさ」を出したい。その「らしさ」の視点が違うわけですね。

二人の「らしさ」の視点が違った。

絵コンテが描いてありますからね。黒澤さんのイメージで進めていくうちに、師匠(勝)もアイデアが浮かんでくるんですよね。

つづく