【花形演芸会スペシャル】音曲師・桂小すみの果てしないポテンシャルに胸が躍る

国立演芸場で「花形演芸会スペシャル」を観ました。(2022・06・10)

令和3年度の花形演芸大賞の贈賞式を兼ねた、まさにスペシャルな会だった。

大賞 桂小すみ

金賞 神田伯山・瀧川鯉八・古今亭志ん五・笑福亭べ瓶

銀賞 玉川太福・柳家㐂三郎・柳家わさび・桂華紋

玉川太福「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」/桂華紋「阿弥陀ヶ池」/柳家わさび「露出さん」/笑福亭べ瓶「江戸荒物」/古今亭志ん五「水族館」/神田伯山「宗悦殺し」/中入り/贈賞式/柳亭左龍「馬のす」/柳家㐂三郎「のっぺらぼう」/瀧川鯉八「若さしか取り柄がないくせに」/桂小すみ

さすが賞を獲るだけあって、強者ぞろい。この会はお祝いの会であって、賞を競う通常の「花形演芸会」ではないのに、どこかに爪痕を残そうという芸人魂がたくましい。

しっかりマクラで笑いを取っても、それだけでは飽き足らず、短い時間でも自分の個性をしっかり、くっきり出す高座ばかりだった。太福先生の「男はつらいよ」も、登場人物、特に中村雅俊の物真似に特化して押す、押す。華紋さん、べ瓶さん(もしかしたら師匠という呼称が良いのかしら?)も、上方特有のこってり味で楽しませてくれた。わさび師匠は百栄作品を独自のカラーに染めて、客席を爆笑の渦に巻き込んでいた。

志ん五師匠はあのとぼけた味わいが何とも可笑しいし、伯山先生は「11分で宗悦殺しを演ります!」と、客電を落としてすっかり怪談噺の世界へ。㐂三郎師匠も「芝浜」ダイジェストを前振りにして、得意の夢オチの噺を披露。鯉八師匠は審査員寸評にもあったように「唯一無二」の不思議な面白さへいざなってくれた。

だが、何と言ってもブラボーなのが、小すみ師匠だ。大賞だから許されているのか、30分のさながらリサイタル。一旦緞帳が降りたので、何?と思ったら、電子ピアノが高座にあるではないか。大薩摩のダイナミックな三味線演奏の後に、「オン・マイ・オウン」をピアノを使って、英語とドイツ語で披露。これを岩谷時子先生の翻訳で歌うと・・・すごい字余りで、早口に。この人、語学も堪能。

洋の東西では、音楽の傾向が言語によって変化するものであることを思い知らされる。この場合、「隅田川さえ 竿さしゃぁ届く なぜに届かぬ この思い」と、七五調の日本語の素晴らしさがよく分かる。大学時代はウィーンへ留学してミュージカルを学び、同時に17歳で三味線と出会って小すみの才能は花開く。

どうぞ叶えて下さんせ 妙見さんへ願かけて 帰る道にもその人に 逢いたい見たい恋しやと こっちばかりで先や知らぬ ええ辛気らしいじゃないかいな。この小唄を英訳してピアノに合わせて歌うと、また違った素晴らしさがある。

音楽的才能と言葉のセンスと発想の豊かさ。音曲師という肩書では言い表せないポテンシャルは今後、益々活躍の場を広げていくだろう。