【玉川太福 芸歴15周年記念独演会 夏】山田洋次監督との対談は、珠玉の30分間だった
国立演芸場で「玉川太福 芸歴15周年記念独演会 夏」を開催しました。(2022・06・09)
山田洋次監督と玉川太福さんの対談は盛り上がり、30分に及んだ。
「男はつらいよ」の魅力は、渥美清という俳優の魅力だと監督は言っていた。彼は脚本には一切口出ししない。だけれども、いざ撮影ということになると、その場を自分の世界にしてしまう素晴らしさがあったと。
キャメラが回って、渥美さんが芝居をすると、なぜか可笑しくて、共演している俳優が皆、笑ってしまう。吹き出してしまう。夜の撮影ともなると、テンションも高くなり、笑いが止まらなくなってしまう。終いには、キャメラマンが怒り出してしまう。倍賞さんが「すみません」と謝って、撮影を再開するが、また可笑しくて、笑い出してしまう。そういう「力」を渥美さんは持っていたと。
「男はつらいよ」は最初、テレビドラマから始まった。それを映画化して、松竹は第1作で終わるつもりだった。だが、評判が良くて、続編を作る。それが何回も続いて、第8作目あたりから、「こりゃあ、国民的ヒット映画なのかもしれない」と意識するようになったそうだ。
「男はつらいよ」には、地元の人がエキストラで出演するシーンがある。本当に、その場でお願いしたそうだ。すると、渥美さんは独特の雰囲気を持っていて、その地元の人たちに「キャメラを意識させない」映像を撮ることができた。それがまた、この国民的映画の魅力なのかもしれない。
この日、太福さんがうなった第17作「寅次郎夕焼け小焼け」。マドンナの大地喜和子さん。あのぼたんという役はとても良くて、彼女が早逝しなかったら、また再び「男はつらいよ」に登場をお願いしたかもしれないとも。
太福さんが浪曲化することに関して、監督はどう思っているか?気になるところで、太福さんが「2時間ある作品を30分くらいに縮めているわけですが、それは嫌ではないですか?」と質問した。すると、監督は「そんなことはないですよ。あなたの芸になっているから」と。映画の予告編で、やたら短いカットを繋いだものが最近は流行りだが、それは好まないそうだ。だが、太福版浪曲は「芸になっている」と御墨付きを戴いた。
山田監督は先代柳家小さん師匠に何作か新作落語を書いているが、それについては、小さん師匠からの御指名だったそうだ。監督いわく、「私はメロディを書く作曲家。それを小さん師匠がアレンジする編曲家。そうやって二人で作ったんです」と。小料理屋なんかでそういう作業をして、「実に愉しい時間だった」。小さん師匠からは遊びを色々と教わったそうだ。お座敷なんかでも、本来は芸者が客を喜ばさなきゃいけないのに、小さん師匠が芸をやって、芸者を楽しませていたとも。
最後にリップサービスかもしれないけれど、山田監督が太福さんに「あなたのナレーションで映画を作りたい」とも。山田監督にこれだけ気に入られているからこそ、「男はつらいよ」の浪曲化が認められているのだなあと感じた。