広瀬和生「落語の目利き」落語界の現在進行形をウォッチし続ける落語評論家のトップランナー
ユーロライブで「広瀬和生を聴け!三遊亭兼好の落語とスペシャル対談の会」を観ました。(2022・06・07)
竹書房から出版された広瀬和生著「落語の目利き」の出版記念落語会である。ただ、メインディッシュは兼好師匠の落語ではなく、(実際には「権助魚」と「天災」の2席を演じたのだが)兼好師匠が聞き手となって、落語評論家としての広瀬和生さんの了見を訊く対談にあった。とても興味深い内容だった。
「落語の目利き」は、週刊ポスト(小学館)で2017年8月16日~2021年9月27日まで連載されていたコラム「落語の目利き」に加筆・修正を加えてセレクトしたものだ。
僕は連載スタートと同時に、このコラムの愛読者となり、ちょっと買いにくい表紙の「週刊ポスト」をこの連載を読むために毎号欠かさずに購入し、読み、スクラップ帳に貼っていた。これは「落語の一つの時代の貴重な記録」になると考えたからだ。実際、出版されたのも、その意義を竹書房が認めたからだろう。
2005年くらいからだろうか。広瀬さんは当時、流行っていたmixiというネット上のブログ機能を使って、「現在の落語」を記録する作業を続けていた。身銭を切って、ほぼ毎日寄席や落語会に通い、感想を日記に綴っていた。それは的確な評論となっていて、既存の落語評論家と呼ばれる人たちの著作とは一線を画していた。僕もマイミクになって、夢中でそれを読んだ。
それは、やがて実を結び、2008年にアスペクトから「この落語家を聴け!」が出版され、落語ファンの間で話題になった。なぜなら、それまでの落語ガイドは既に亡くなった落語家を評論するものが多く、「今、現在進行中の落語界」を案内しているものがほぼなかったからだ。
広瀬さんは対談でも言っていた。これから落語を聴いてみようという人に対し、「寄席に行っていましょう。そうすれば、貴方の好みの落語家が見つかるはずです」というのはあまりにも不親切だ。だって、本屋へ行ってみましょう。きっとあなたのお気に入りの本に出会えるはず、と言っているのと同じだからだと。
で、話を「落語の目利き」に戻すと、名著である。まさに2017年からのプチ落語ブームから、2020年にはじまるコロナ禍の中の落語界を図らずも映し出している。
特に2014年にスタートした「渋谷らくご(通称シブラク)」、そして落語芸術協会の二ツ目ユニット「成金」の活躍を中心に、落語界が「二ツ目を中心に」活況を呈するようになったことを、まえがきで記しているが、まさにその通りである。
当然、「この落語家を聴け!」で紹介されたベテラン、中堅の落語家を負けずに奮闘し、落語ファンの層は厚くなっている。このことも、きちんと広瀬さんは押さえている。
そして、対談の中で広瀬さんが言っていて、本当にそうだよなあと共感したのは、そうは言っても、映画や演劇、音楽の世界のようには、演芸ファンは多くないということだ。「熱心な落語ファンは、東京でたかだか1000人でしょう」。その中で、若手や中堅、ベテランが集客を競い合っているというのが現状だ。鋭い。
最後に、さすが広瀬さんだなあ、と思ったのは、「あとがき」だ。落語芸術協会の二ツ目、柳亭信楽に触れている。連載終了後に追いかけ始めたという。その突拍子もない発想によるバカバカしい新作にハマり、毎月のように彼の勉強会に足を運んでいるという。
さすがは、広瀬和生さん!常に変化し続ける落語界をくまなくウォッチし続ける広瀬さんの評論をチェックしていきたい。