【追悼 澤孝子師匠】支柱を失った浪曲界が、今後も盛り上がっていくために。

上野広小路亭で「新鋭女流花便り寄席」を観ました。(2022・05・27)

澤雪絵さんの「からかさ桜」が素晴らしかった。以前に、師匠の澤孝子さんの「からかさ桜」を聴いて、とても感銘を受けたのを覚えているが、それを見事に後継しているなあと感じた。

と、思っていたら、この日の夜に報道で孝子師匠の訃報に接した。何という偶然だろう。そして、5月の木馬亭定席では力強い素晴らしい高座を聴いていただけに、驚きを隠せなかった。21日に亡くなって、葬儀は親族で済まされたという。

82歳。現在の浪曲界で最高峰の芸を見せていた至宝と言ってもいいのではないか。今、その至宝を失った悲しみは大きすぎて、途方に暮れている。

僕が本格的に木馬亭定席を聴き始めたのは、2020年3月いっぱいで退職してからだから、そんなに時間は経っていないし、それほど沢山の高座を聴いたわけでもない。でも、その中で澤孝子師匠の高座は別格だった。

師匠である二代目広沢菊春先生から教わった「竹の水仙」「からかさ桜」「一本刀土俵入り」「蟹」「徂徠豆腐」。

大西信行先生の作品である「春日局」「雪おんな」「母子河童」「女医吉岡彌生先生伝 さくらさくら」などが印象に残っている。

これらのネタはすでに弟子の雪絵さんらに継承され、師匠亡き後、さらに磨いた高座が聴けるのを楽しみにしている。

また、この秋には三代目広沢菊春を、弟子の澤勇人さんが襲名することが決まっている。その披露目を見ずに、孝子師匠があの世に逝ってしまったのは残念だが、一門が結束して、師匠の遺志を力を合わせて実現していくことにも期待したい。

これは澤孝子一門だけの問題ではない。浪曲界が今後盛り上がっていくためには、木馬亭で毎月2日はトリを取っていた孝子師匠の後継を日本浪曲協会が一丸となって埋めていく必要がある。

喪失感や悲しみをプラスに変えて、浪曲という大衆芸能を幅広い世代に広めていくためにも、この澤孝子師匠の死をきっかけに奮起してほしいし、僕は温かい目で応援していきたいと思う。