「人生はうまくいかない。だから面白い」…スヌーピーが教えてくれたもの(4)

NHK総合の録画で「アナザーストーリーズ スヌーピー最後のメッセージ~連載50年 作者の秘めた思い」を観ました。

きのうのつづき

初期の作品に切なさが漂うのは、失恋の影響だろうか。だが、シュルツは負け犬で終わるつもりはなかった。

当初はキャラクターが多すぎて、わかりにくいと言われた「ピーナッツ」。シュルツは根気強く改良を続け、キャラクターたちを人気者に育てていった。親友のディーンはその秘密がどこにあったか、あるとき気づいたという。

彼は「私のことが知りたかったら、漫画を読めばいい。それが私だから」って。確かに気づいたよ。33年間付き合ってきて、シュルツの75%がチャーリー・ブラウンだってね。

勝負に負けては癇癪をおこす。うまくいかなくてシタバタする。親友のディーンによれば、あれはシュルツそのもの。彼は自分をキャラクターに投影し、笑っていたのだという。

彼は口癖のようにこう言っていたんだ。「人生は勝つことより、負けることが面白いんだ」。それは確かに負けた奴がバカげたことをするのは面白いしね。スヌーピーが悪ふざけでゴルフコースを駆け抜けていったり、ゴルフクラブを投げつけたりするけど、まさにシュルツがそうだった。

シュルツは彼自身を客観的に見ていたのだ。そしてシュルツは連載11年目、あの心の傷にも向き合っている。

「あの赤毛の女の子、僕の傍に来て座ってくれたら何でもくれてやるのになあ」。

赤毛の女の子。姿は決して描かれないが、以後、チャーリー・ブラウンの片思いの相手であり続ける。

「決心したぞ。今日こそ、小さな赤毛の女の子に自己紹介するんだ」「立ち上がって、彼女のところに歩いて行って、自己紹介する」「立ち上がったぞ。今度は歩いて行って…」「立ち上がったぞ。今度は…座った」。

赤毛のドナ・ジョンソンの家族は今もミネアポリスに住んでいる。ドナの娘、サリー・ウォルド。残念ながら、ドナは5年前に亡くなっていた。3人の子どもと養子1人を育て、里子も数十人引き受けた。優し女性だったという。

ある日、シュルツから電話を受けた家族は、あの赤毛の女の子が母であることを知った。

シュルツさんと私の父が同時に私の母にプロポーズしたらしいです。結局、母は父を選んだんですけどね。私たちにとっては幸運だったというか、何というか。

恋敵だった父親のアルにも直撃してみた。

シュルツからプロポーズを受けたと彼女から聞いてね。私も彼女のことが大好きだったから、急いでプロポーズしたんだよ。少し時間がかかったけど、彼女は私を選んでくれて嬉しかったよ。

シュルツから電話が来たのは、連載が始まって何と38年のことだった。そして、夫のアルも電話でシュルツと話したという。

すっかり成功して有名になったシュルツと喋った。そのとき彼は「君はどんな車に乗っているんだ?」と訊くから、私は「フォードだよ」と。すると、彼は「メルセデスに乗っている」と言っていた。で、ゴルフクラブは何を使っているんだ?俺はブランド物を使っているとね。

それは負けず嫌いのシュルツ一流のジョーク。以後、すっかり打ち解けたという。シュルツはこんな作品も描いている。

「いつの日か、チャーリー・ブラウン、あなたは夢の女の子に出会うわ」「ほんと?」「もちろんよ。そして、あなたは彼女に結婚を申し込むの」「素晴らしいな」「素晴らしいって、どういうこと?彼女はあなたを振って、他の男と結婚するのよ。どうせなら、知っておいた方がいいリストの上位にあるわ」。

私が漫画になぜこれほど片思いの恋が登場するのか、わかりません。私は片思いというものに取りつかれているとは言わないまでも、魅了されています。片思いはどこか滑稽なところがあります。それはきっと誰にも身に覚えがあるからでしょう。(「スヌーピーの50年」朝日新聞社)

シュルツは連載の中で、たった一度、赤毛の女の子の姿を描いた。でも、シルエットだけ。顔は描かなかった。晩年、ドナはシュルツと再会している。彼はドナにシルエットの意味を伝えていた。誰もが自分の叶わなかった恋の相手を思い浮かべるられるように。

つづく