「ノルウェイの森」~“世界のハルキ”はこうして生まれた~(8)

BSプレミアムの録画で「アナザーストーリーズ 『ノルウェイの森』~“世界のハルキ”はこうして生まれた~」を観ました。

きのうのつづき

村上はOKしてくれるのか。トランと小川は2006年1月、再び村上を訪ねた。

小川が振り返る。

最初は返事がなかなかなかったんですね。かなり原作に忠実に書いていたので、もっと自由にやっていいんじゃないかという意見を言われましたね。基本、前向きに進めましょうと言う感じで。村上さんからは映画の製作をどうしていくのか、質問があったりして。契約はどうするのかという話も出ていました。そこからが大変だったんですけどね。

村上は脚本に沢山の書き込みをしていた。言葉のニュアンスなど、細かい点もあったという。その後、何度もやりとりを重ねた。村上がパリのトランを訪ね、打ち合わせたこともあった。3年ほどかけて、トランは脚本を練り上げていった。

再び、小川が振り返る。

最後にトラン監督の台本注釈を読んで頂いたときですかね。後の直しはお任せします、という返事を頂いたのは。

そうして、2008年3月。ついに正式に映画化の契約が結ばれた。

2009年2月。映画「ノルウェイの森」、クランクイン。

主人公のワタナベには若手実力派の松山ケンイチを起用。二人の女性の間で誠実であろうと悩むワタナベを丁寧に表現した。

トランが語る。

ワタナベの倫理観が揺れ動いている様子は単純に表現できません。色々なシーンを積み重ねていくことで、観客は理解していくでしょう。ワタナベがどう見えるか、それが全てでした。

ワタナベは精神を病んだ直子に向き合おうと、しばしば会いに行く。一方、クラスメイトの緑に好意を寄せられる。しかし、応えられない。

ワタナベの葛藤を表すために、カメラの位置や動きにこだわりました。彼の人生の不安定さ、どこか宙ぶらりんな感じを出そうとしました。

2010年、映画はついに完成した。作品はイタリアのベネチア国際映画祭で上映され、トランは満場の喝采を浴びた。村上は珍しく試写会に出席。こうコメントしている。

映像は美しく、役者たちの演技は見事だと思いました。

トランは語る。

小説の中では若さへの憧れがやがて失われていきます。一方で、私たちは常に若さへの憧れを抱きながら生きています。これは誰もが人生の中で経験していることです。私たちはあるとき、青春が終ってしまったことに気づく。ともに生きていきたいと思った若さが失われ、二度と戻ってこないこないことに気づくのです。

つづく