【四月大歌舞伎 第3部】「ぢいさんばあさん」仁左衛門と玉三郎というゴールデンコンビに涙を禁じえない

歌舞伎座で「四月大歌舞伎 第3部」を観ました。(2022・04・25)

「ぢいさんばあさん」。去年の12月に、勘九郎・菊之助コンビで観てとても良かったのを覚えているが、仁左衛門・玉三郎のコンビはそれとは比べてはいけないほどに別格の素晴らしさがあった。涙を禁じえない舞台だった。

特に、最後の37年ぶりの再会の場面。「余生ではない。新しい人生がはじまるのだ」という言葉に何か勇気さえ与えられたような気がした。

序幕と同じ伊織の屋敷の場だが、桜の木の成長とすっかり年老いた夫婦の姿によって、37年という歳月の流れを視覚でも感じさせる巧みな演出が光る。

老夫婦の再会は、時に滑稽で、時にもの悲しさを湛えている。特に若々しい甥夫婦の対比により、長年離れ離れになった伊織とるんの過酷な運命が透けて見える。それでも二人の気持ちは変わらないという夫婦の情愛が胸に響く。

今日は伊織の罪が赦され、伊織とるんが37年ぶりに再会する日。約束の時間よりも早く屋敷に着いた伊織は、懐かしい我が家を見回しながら桜の花を愛でている。

ここへ駕籠がやってきて、中から立派な老女が現れる。最初は互いにわからなかった二人だが、僅かな時間の経過とともに、どちらからともなく気づく。37年という歳月は、二人の姿をすっかりと変えてしまったが、気持ちは変わらない。

るんが二人の間に産まれた息子を疱瘡で亡くしてしまったことを詫びる。そんなこと気にしちゃいないという伊織がいい。でも、褒めてほしいこともあるとるんが言って、屋敷奉公していた先で頂いたご褒美を伊織に見せる。伊織が大層、喜んで、すごいじゃないかと言うところもいい。それに比べて、私は何も…と言うが、そんなこと気にしちゃいませんよというるんもいい。

過ぎ去った時間を語り合いながら、伊織とるんは満開の桜を共に愛で、今日からの新しい生活をはじめようと肩を抱き合う。

抱き合う場面が3度あったと思う。その度に、新鮮な気持ちで、お互いを労わり合うように抱き合っていた。観ているこちらまで、うんうんと頷いてしまう抱擁だ。

幕が閉まる前、伊織の鼻を押さえる癖をるんが指摘するところが、とても睦まじくて良かった。

美濃部伊織:片岡仁左衛門 弟宮重久右衛門:中村隼人 下嶋甚右衛門:中村歌六 柳原小兵衛:坂東秀調 山田恵助:河原崎権十郎 石井民之進:片岡亀蔵 戸谷主税:片岡松之助 宮重久弥:中村橋之助 久弥妻きく:片岡千之助 伊織妻るん:坂東玉三郎