【四月大歌舞伎 第2部】「荒川の佐吉」三下のやくざだが、佐吉は愛情と優しさのある好人物だ

歌舞伎座で「四月大歌舞伎 第2部」を観ました。(2022・04・20)

「荒川の佐吉」。幸四郎演じる子煩悩な佐吉が注ぐ、盲目の卯之吉に対する愛情に心が打たれた。

日本橋の丸総という呉服屋に嫁いだ、鍾馗の仁兵衛の娘お新が産んだ子供は盲目だった。これを仁兵衛に頼まれて、三下のやくざである佐吉が面倒を見ることになる。本当は仁兵衛の末娘、つまりはお新の妹お八重と佐吉を一緒にさせて、卯之吉を引き取るはずだったが、お八重が嫌がって逃げたので、佐吉が独りで面倒を見た。偉いなあ。

第二幕はそれから7年が経った、大工辰五郎の家だ。佐吉は卯之吉と共に辰五郎の家に身を寄せている。尾上右近演じる辰五郎もまた優しい男で、いつか千両の金を貯めて検校の位を買ってやろうと励ましている。

人間というのは身勝手だ。かつて盲目を理由に卯之吉を手放して丸総の本妻におさまったお新が、その後子宝に恵まれないから、卯之吉を返してほしいと言い出してきたのだ。丸総の使いとして来た忠助という男が100両の金子を渡して、これで返してほしいという。これを拒む佐吉に対し、無理やり連れだそうとする忠助。佐吉はこれに抗い、弾みで忠助を手に掛けてしまった。

これをきっかけに、捨て身になれば恐れる相手はいないと、佐吉は仁兵衛の仇討を決意する。仁兵衛はいかさま博奕が露見して、浪人者の成川郷右衛門の手下に殺された過去があるのだ。

向島の請地、秋葉権現の辺りで、佐吉は成川が現れるのを待ち伏せ、子分たちとやってくる成川を背後から斬りかかろうとする。すると、そこを通りかかった駕籠から声が掛けられる。声の主は江戸で有名な口入れ稼業の相模屋政五郎だ。その政五郎が見守る中、佐吉は成川を討ち取る。

それから一年余り。仁兵衛の跡を継いだ佐吉は、政五郎の引き立てで両国橋近くに家を建て、卯之吉や辰五郎と暮らしている。政五郎が丸総のお新を連れてやって来た。お八重と一緒になって鍾馗の二代目を継ぎ、卯之吉を丸総に返さないかと話しを始める。

しかし、佐吉はお新の身勝手を責め、苦労して育てた卯之吉を返すことを断る。すると、お新は前非を後悔し、自害しようとする。政五郎が言う。卯之吉の将来を考えれば、丸総に返した方が幸せではないか。

佐吉は心を動かされた。卯之吉を返すことを決断。その上で、育ての親である自分が江戸にいては、後々、卯之吉に迷惑がかかるので、明日にでも江戸を去るという。その心中、いかばかりか。

第三幕のその二、向島長命寺前の堤。翌日の朝。佐吉が政五郎と別れの盃を交わすために、長命寺前の茶屋を訪ねると、中からお八重が現われ、これまでの非礼を詫びる。そこへ、政五郎、卯之吉を伴った辰五郎も姿を見せ、皆で別れの盃を交わす場面は感動的だ。桜が舞い散る江戸を佐吉が旅立っていく姿は涙で曇ってぼんやりとしていた。

荒川の佐吉:松本幸四郎 仁兵衛娘お八重:片岡孝太郎 大工辰五郎:尾上右近 鍾馗の仁兵衛:松本錦吾 隅田の清五郎:市川高麗蔵 浪人成川郷右衛門:中村梅玉 卯之吉:石田ゆうま 白熊の忠助:嵐橘三郎 丸総の女房お新:中村魁春 相模屋政五郎:松本白鸚