【四月大歌舞伎 第1部】「天一坊大岡政談」悪事の背後に、ブレーンとなる山内伊賀亮がいた

歌舞伎座で「四月大歌舞伎 第一部」を観ました。(2022・04・18)

「天一坊大岡政談」紀州平野村お三住居の場より大岡役宅奥殿の場まで。

初代神田伯山が得意とした講談を基に、河竹黙阿弥が歌舞伎にした演目である。

のちに天一坊を名乗る法澤の悪党ぶりを猿之助が巧みに演じているが、僕は今回、愛之助が演じた山内伊賀亮に注目した。

二幕目、美濃国長洞常楽院本堂の場。法澤は吉之助と名乗り、八代将軍吉宗の御落胤だとして、伊予から来た赤川大膳と藤井左京、さらに常楽院の住職の天忠を巻き込み、吉之助への忠義を尽くし、江戸下向の供することを決意させるが。そこで良きタイミングで、実は「吉宗の御落胤ではない」と本当のことを告げる。

ここが法澤の巧いところで、所持する刀と墨付は正真正銘の本物であるが、これを手に入れた経緯を語って、「一緒に天下を欺かないか」と誘う。改めて、自分に加担して栄華を手に入れるか。それとも自分を殺すか。大胆不敵な法澤に三人は惚れこみ、加担することに。

ここで登場するのが、愛之助演じる山内伊賀亮である。天忠が「九条関白家の元家臣で、才知に長けているこの男を味方に付けるのがよい」と法澤にアドバイスするのだ。

この企みを聞いた伊賀亮は一味に加担することを拒む。大膳たちは大事を知った伊賀亮に斬りかかるが、これを法澤は止める。そして、法澤は伊賀亮に、自分の首を討ち、将軍家に訴え出て、手柄にするようにと覚悟を示す。すると・・・法澤の潔さに感心した伊賀亮は、一味に加わることを何と承諾するのだ。何というスリリングな展開。そして、伊賀亮の進言で法澤を天一坊と名乗らせる。

で、三幕目、奉行屋敷内広書院の場での松緑演じる大岡越前と伊賀亮のやりとりが実に良い。いわゆる、網代問答である。

将軍が御落胤についての覚えがないと言っているのを一番の証拠に、越前守は天一坊の申し出が虚偽であると判断する。これに対し、伊賀亮は証拠の二品を根拠にした上、天一坊の容姿や声が将軍の幼い頃と同じであると異議を申し立てる。

すると越前守は、元は九条関白家の家臣だった伊賀亮が、幼少時の将軍の容姿や声など知っているはずがないと反論する。対して、伊賀亮は将軍の母である紀州大納言光貞の御台所は九条関白家の姫君であり、九条家の使者として紀州家に出入りしていた際に、将軍に書道や和学を教えたこともあると引き下らない。

さらに将軍の御落胤の官位や立場を尋ね、天一坊が乗ってきた網代の駕籠が不敬と責めるが、その詮議こそ誤りと反論し、両者は激しい応酬を重ねるところ、実に見ごたえがあった。

越前守は天一坊を御落胤と認めた形になったが、実はそれは本心ではなく、腹心の池田大助を紀州に遣わし、真偽を追及したことが、最終的に功を奏して、天一坊の虚偽が暴かれることになるのだが、そのときには観念をしていた伊賀亮は妻と共に自害していたという。流石の天一坊ももはや万事休すである。

天一坊実は法澤:市川猿之助 下男久助:坂東巳之助 下女お霜:坂東新悟 お三:市川笑三郎 僧天忠:市川男女蔵 藤井左京:市川青虎 山内伊賀亮:片岡愛之助 伊賀亮女房おさみ:市川笑也 赤川大膳:市川猿弥 池田大助:坂東亀蔵 大岡越前守:尾上松緑