【プロフェッショナル 美容師・髙木琢也】俺は、人生をデザインする(5)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 美容師・髙木琢也」を観ました。(2019年5月14日放送)
きのうのつづき
稀代のカリスマ美容師、髙木琢也。日本最大規模のヘアコンテストで前人未踏の三連覇達成。だが、髙木には野望があった。
世界をマジでハッピーに。だが、この挑戦が髙木を思わぬ苦境に導くことになる。
共同経営者である中村と策を練り始めたのは去年12月。問題はどこを足掛かりにするか。シンガポールが候補となった。
最大の問題は言葉。閉店後、英会話のレッスンを始めた。英語に触れるのは高校以来。しかも、大の苦手。
チャレンジしないと進化しないし、むしろ止まっている方が怖い。ダサイところも認めて、ビビっているところも認めて、前を見て進まない限り、成功なんてあるわけねえだろうと思っているので。
3月、髙木はシンガポールに渡った。日本人オーナーが経営する美容室の一角を借り、3日間、腕を試す。だが、拙い英語で相手の要望を聞き出し、髪型を提案するのは容易ではない。
初日。一人目の客。髪を見て、面食らった。手の施しようのないほどヅタヅタに切られた髪。傷みも激しい。普段、トリートメントすることもなければ、スタイリングすることもほぼないという。
髪に対する関心は驚くほど低かった。出来上がりの反応も拍子抜け。初日は9人をカットしたが、そのほとんどが髪に対して無頓着。その理由は、平均気温27度、湿度80%を超えるシンガポール特有の気候にあった。髪を乾かしても、すぐに湿気でベタつくため、ドライヤーを使う人もほとんどいないという。
髙木が言う。
髪の毛に対しての価値観がほとんどないんだろうなと思って、そこに興味を持ったら、メッチャよくなることはもう分かってて。だから、どういう風に興味を持たせるか。
だが、言葉の壁が立ち塞がる。どれだけ訴えかけても、通訳越しでは伝わらない。
現実は甘くないなと思いました。もう一段階、深さがあったなという感じ。「髪の毛で人生変わるよ」って、言っていたのに、そこまで伝えきれてないんじゃないかという。
翌日。疲れ果てた顔で髙木が現れた。前日の夜、秘策を考えあぐね、3時間しか眠れなかったという。最初の客は30代の女性。
だが、髙木は秘策を用意していた。それは髪に興味を持ってもらうための仕掛け。
カットして、カラーも。どこか遊びを入れるようにして。“乾かす楽しさ”みたいなのを教えてあげるというか。そこを伝えられるようになったらいいなっていう。
まずはカット。小顔に見えるように顔周りは内巻きに。後ろ髪は軽く。ベタ付きづらい髪型にすれば、ドライヤーを使ってくれるかもしれない。
そして、秘策のカラーリング。内側だけを染めるインナーカラー。髪をかき上げたとき、一瞬だけ見えるライトブラウン。これが髪に関心をもってもらうための髙木の秘策だった。
客は最後にこう言った。「もっと、シンガポールに来てね」。
髙木が言う。
美容師って、こういう仕事だっていうか。続けないと駄目だなと思っちゃうな。嬉しかった、すごい。
この3日間、髙木が向き合った客はのべ28人。覚えたての英語で、髙木はひとつの言葉を言い続けた。
人生を変えるよ。
髙木に教えてもらったことがある。
がむしゃらな姿はときにダサく映るかもしれない。それでもいい。その先に、本当のカッコイイが待っている。
ダサくていい。がむしゃらを続けろ。その先を信じて。僕にはこう伝わった。
髙木琢也さん、ありがとうございました。