【二月文楽 第2部】「加賀見山旧錦絵」まさに“女忠臣蔵”の世界に圧倒される

国立小劇場で「二月文楽 第2部」を観ました。(2022・02・21)

「加賀見山旧錦絵」。“女忠臣蔵”とも呼ばれる、この作品。兎に角、激しい!尾上が塩谷判官、岩藤が高師直、お初が大星由良助に当たるのだろう。

御家乗っ取りを狙う一味の岩藤は女中の元締め、江戸城で言えば大奥の局役と言ったところだろう。その悪事がばれてしまう密書を中老の尾上が拾ってしまう。岩藤は口封じをしなければならない。ここに意地悪さが出る。

草履打ちの段だ。岩藤が尾上に町人の出身であることなど、ネチネチと嫌味を言う。砂にまみれた自分の草履を拭くように命じる。恥辱である。戸惑う尾上を岩藤は草履で打ち据える。

ここで立派なのは尾上の態度だ。グッと感情を抑え、岩藤に礼を述べ、草履を戒めのお守りとして貰い受ける。本当は、この恥辱を忘れまいという証に貰ったのだろう。岩藤は呆れ、ますます憎しみが増すのが悲劇になる。

尾上に仕えているのが、お初である。お初は廊下で弾正と岩藤が御家乗っ取りについて密談しているところを偶然聞いてしまう。ここがミソだ。尾上も密書を拾い、そのことを知っている。尾上&お初vs岩藤の対立構造が鮮明になる。

長局の段は尾上の覚悟と、お初の慮りが無言のうちに伝ってくる場面だ。主人である尾上をお初は甲斐甲斐しく世話するが、どこか沈んだ様子の尾上にお初は気づく。しかし、仕える身であるお初はでしゃばるわけにはいかない。そして、尾上が書いた手紙を実家に届けるように、お初に命じる。

ここが、運命の分かれ道だった。お初に渡した文箱には、遺恨の草履と書置きが入っている。胸騒ぎがしたお初は、これを見てしまい、慌てて尾上のいる長局へ戻るが、ときすでに遅し!尾上は自害し、その亡骸の近くには、主君宛ての手紙と岩藤の密書が残されていた。ああ。

お初は岩藤を討つ決意を固める。遺恨の草履と尾上の血が滴る懐剣を手に、奥の間へ!奥庭の段だ。お初は庭先に身を潜め、岩藤を討つ機会を窺う。尾上の死を知っても空とぼける岩藤に「主人の敵、御家の仇」と斬り付ける。激しい争いの果てに、お初は懐剣で岩藤を討ち果たす。見事、本懐を遂げたわけだ。

主人の仇を討ったお初の忠節は褒められ、今後は中老役として、二代目尾上を名乗ることを許される。まさに、女忠臣蔵!

草履打の段 岩藤:豊竹咲太夫 尾上:竹本織太夫 善六・腰元:豊竹靖太夫 腰元:竹本小住太夫/鶴澤燕三

廊下の段 竹本三輪太夫/竹澤團七

長局の段 前 竹本千歳太夫/豊澤富助 後 竹本織太夫/鶴澤藤蔵

奥庭の段 岩藤:豊竹希太夫 お初:豊竹咲寿太夫 庄司・忍び:竹本津國太夫/鶴澤清志郎

中老尾上:吉田和生 局岩藤:豊松清十郎 鷲の善六:桐竹勘介 腰元お仲:吉田玉彦 腰元お冬:吉田玉路 召使お初:桐竹勘十郎 伯父弾正:吉田玉志 忍び当馬:桐竹亀次 安田庄司:吉田玉佳