【二月文楽 第1部】「艶容女舞衣」男女の三角関係のもつれが生んだ悲劇
国立小劇場で「二月文楽 第1部」を観ました。(2022・02・15)
「艶容女舞衣」上塩町酒屋の段。
今頃は半七様、どこにどうしてござろうぞ…、お園のクドキは有名で、愛する男のことを思い、女の胸の内を語っている。だが、お園の亭主の半七といったら、何をやっているんだか!というのが僕の正直な気持ちである。色々と事情はあろうが、こんなに女房に思われていながら、自分の両親のみならず、義理の父親にまで心配をかけるダメンズだ。
愛人の三勝とは、お園と所帯を持つ前から関係が出来ていたのであるから、それなら結婚しなきゃいいのに。それが不幸の最大の原因だろう。さらに、三勝との間には子供(お通)も生まれており、三勝に半七の実家の酒屋に酒を買いに行かせて、丁稚にお通を抱かせて、最終的には父親の半兵衛に押し付けてしまうなんて。
早い話が捨て子だ。酒樽に貼ってあった書付で、半兵衛は「自分に育ててほしいのだな」と理解するが、息子を甘やかしすぎだろう。半七は三勝と心中する覚悟だから、この子、つまりは半兵衛にとっては孫に当たるから、この命は大切にしたいという気持ちはわかるけれども。
半兵衛は懐の深い人物だ。半七が三勝に横恋慕する善右衛門を、贋金を掴まされたことが元で殺してしまった罪まで、代官所に行って自分がかぶるのだから。それを見抜いた、お園の父親、つまりは半七の義父の宗岸も好人物だ。一旦は、自分の娘を蔑ろにする半七に怒りを覚え、お園を実家に引き戻すが、あまりにお園が半七を思う気持ちが強いので、もう一度、やり直せないかと半兵衛のところにお園を連れて頭を下げに来る。半七が気に入らないなら、お園を尼にして半兵衛夫婦の跡を弔わせてほしいと泣き崩れる。すごい。
半兵衛もよーくその気持ちは分かっている。だからこそ、お園が若くして後家にするのは不憫だと思い、改めて嫁に迎えることを拒んだのだと明かす。半七の周りの大人たちは、よく出来た人物で、だからこそ、気持ちも通じ合うというのは、この浄瑠璃の良いところだ。
残されたお園。お通がハイハイしているところを見つけ、すぐにこれは半七と愛人・三勝との間の子だということを察する。利発だ。お通の懐にあった書付は、半七が書いたもので、両親への感謝と不孝を詫びる気持ち、お通をよろしくお願いします、未来ではお園と夫婦になりたいとあまりに身勝手なことが書かれていると僕は思うのだが、お園はじめ一同は悲しみに沈む。
その様子を門口で漏れ聞いているのが、半七と三勝。涙を流し、中を窺うが、半七の代わりに罪をかぶっている半兵衛を救うために、二人は心中するしかないのである。致し方ない。
なんて哀しい話なんだろう。半七がしでかしたことが原因だから、二人が心中すれば、問題は片付くのだろうか。いや、周囲の人たちが皆、この後には幸せが待っているとは思えないのが辛い。
中 豊竹靖太夫/鶴澤清馗 前 豊竹藤太夫/鶴澤清友 奥 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治
丁稚長太:桐竹勘次郎 半兵衛女房:吉田文昇 美濃屋三勝:桐竹紋臣 娘お通:桐竹勘昇 舅半兵衛:吉田玉輝 親宗岸:桐竹勘壽 嫁お園:吉田蓑二郎 茜屋半七:桐竹紋秀