【二月文楽 第3部】「平家女護島」俊寛の感情の揺れ動きに、観客も心揺さぶられる

国立小劇場で「二月文楽 第3部」を観ました。(2022・02・18)

「平家女護島」鬼界が島の段。俊寛の感情の揺れ動きに、観ているこちら側も何度も心が揺さぶられる浄瑠璃だ。

平家打倒の陰謀の罪で島流しになった俊寛。同じ罪で康頼と成経と一緒に3年の月日が流れた。絶海の孤島での暮らしで身も心もやつれ果てているはずだが、良いことがあった。成経が島の海女と夫婦の契りを結んだという。名を千鳥という。荒んだ生活が続く中で久しぶりの明るいニュースに心が和む。俊寛も喜んだ。

そこへ都から船が到着するところから、劇的な展開がはじまる。都の使者は瀬尾と丹左衛門の二人。清盛が赦免状を出したという。ところが、そこに俊寛の名前だけがない。清盛はことのほか俊寛を憎み、一人だけ許さなかったのだ。残酷な仕打ちにがっかりする俊寛。

だが、使者の丹左衛門が別の書面を取り出し、平重盛の特別な計らいにより、俊寛も備前まで戻ることが赦されたと告げる。一同は喜び、船に乗り込もうとするが、千鳥だけは遮られてしまう。関所の通行切手は三人と書かれているからだ。人数を超えての乗船は許さないと瀬尾が言う。

さらに意地の悪い瀬尾は、俊寛の妻あづまやが清盛の意に背いて自害したことを告げる。清盛があづまやに横恋慕したのを拒んだことが原因だ。また悲しみにくれる俊寛。

ここで俊寛は考える。妻のいない都に帰っても何の喜びもないので、自分の代わりに千鳥を乗船させてやってほしいと懇願する。だが瀬尾はそれも許さない。と、俊寛は瀬尾の刀を奪い、瀬尾を斬り付ける。自分は使者を殺した罪により、改めて流人として島に残るので、代わりに千鳥を乗船させてほしい、と。そして、瀬尾に止めを刺して、討ち取る。何という発想か!

そして、俊寛との別れを惜しんだ康頼、成経、千鳥を乗せた船は出発する。俊寛は海原の彼方へ消えゆく船を見送り、いつまでも立ち尽くす。

ここで考えたいのは、俊寛の本心だ。もはや現世に未練はないと諦めたものの、やはり都への思いは立ち切れなかったに違いない。この悲しみはいかばかりか。「思い切っても凡夫心」。島に残される寂しさ、厳しさによって俊寛の心は引き裂かれるような思いではなかったのだろうか。いつまでも沖を見つめる俊寛に、生への執着が感じられてならない。

豊竹呂太夫/鶴澤清介

俊寛僧都:吉田玉男 平判官康頼:吉田玉翔 丹波少将成経:吉田文哉 蜑千鳥:吉田勘彌 瀬尾太郎兼康:吉田玉助 丹左衛門基康:吉田勘市