林家きよ彦「正しい同窓会」常に前を見ろ。思い出禁止のルールを作った理由。

江戸東京博物館小ホールで「林家きよ彦独演会」を観ました。(2022・02・08)

自称、“落語界の田嶋陽子”と言って登場した、きよ彦さんはいつも元気いっぱいである。オープニングトークは袴を履いての出で立ちだったので、“独楽の回せない紋之助師匠”とも言っていた。アハハ。兄弟子のやま彦さんのしくじりエピソードを丸く包んで提供するサービスも愉しい。また、笑いのツボをしっかり押さえたフリートークだけでなく、独自の創作能力に長けた新作落語も面白い。そして何より、高座が一貫して明るいのが良い。去年に二ツ目に昇進したばかりだが、将来有望な若手だと思う。

林家きよ彦「反抗期」

エリカちゃんの母親の教育方針は「立派な元ヤン」に育てること。この逆転の発想に説得力がある。世の中は肩書が一番大事なのよ、と言っておいて、その最強の肩書が「元ヤン」(元ヤンキー)。確かに病気になったとき、東大を出たお医者さんよりも、元ヤンのお医者に診てもらいたい。落研出身の噺家の落語よりも、元ヤンの噺家の落語を聴いてみたい。然り。親の敷いたレールに乗ってヤンキーになるのが、人生成功への近道!現代の学歴社会へのアンチテーゼが含まれた新作、やるねえ。

林家きよ彦「保母さんの逆襲」(林家彦いち・作)

他の噺家さんが創った新作を演るのは初めてとか。しかも、師匠・彦いち作品。この噺の肝である、人間は窮地に追い込まれると何をしでかすかわからない、というメッセージがきちんと伝わる高座になっていた。結婚の約束までした彼氏に棄てられた女性が、自棄をおこして銀行強盗に入る気持ち、わからないでもない!と思ってしまう説得力はなかなかのものだ。銀行の支店長の慌てふためく様子も、女性の混乱と見事に融合して、面白さを倍増させていた。

林家きよ彦「正しい同窓会」

同窓会って、僕は嫌いで行かないんだけど、きっとそうなんだろうなあと頷いてしまう噺だ。毎回開かれるたびに繰り返される「同じ思い出話」。もう、それはうんざりだ。だから、思い出話禁止の同窓会にしたという発想がユニークで面白い。思い出で懐かしむのが同窓会の醍醐味だという人がいるかもしれないけれど、人間は常に未来に向かって生きて行かないといけないんだ。そんなメッセージを説教くさくなく、盛り込んだきよ彦さんのセンスが光っていた。