【プロフェッショナル 雑誌編集長・山岡朝子】思い込みを捨て、“思い”を拾う(1)

NHK総合テレビの録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 雑誌編集長・山岡朝子」を観ました。

月刊誌「ハルメク」は一般的にシニアと呼ばれる世代の女性向け雑誌だ。書店には並ばない。定期購読の販売にもかかわらず、販売部数は女性誌ナンバーワン。10万部を超えればヒットと言われる時代に、38万部を売り上げる。その異例のヒットを生み出しているのが、編集長の山岡朝子さん(47)だ。低迷していた雑誌をV字回復させた凄腕。ヘッドハンティングで再建を託され、編集長に就任。どん底だった会社をトップに押し上げた。雑誌が売れない今、なぜ客の心を掴むのか。舞台裏を追ったドキュメントを観た。(以下、敬称略)

朝9時。出勤前に息子を保育園に送るのが山岡の日課だ。子どものペースで道草しながら、30分かけて歩く。職場は東京・神保町だ。

編集部員は30代から50代が中心の12人だ。山岡が再建を託され、編集長に就任したのは5年前。任されたのは、50代以上の女性をターゲットにしたシニア向け雑誌だった。老後の健康や暮らし方などをテーマにしていたが、購読者が減り続ける中、山岡が誌面を刷新した。

雑誌をシニアではなく、「大人の女性」と定義し直し、女性誌で人気の美容やファッションなどを大きく取り上げた。白髪を素敵に見せるゲレイヘア。スマホ操作のイロハ。読者の悩みに独自の切り口で答える特集で、ヒットを連発。売り上げを回復させた。

再建にあたり、山岡が真っ先に見直したのが企画の決め方だった。企画作りは編集部員全員が参加する会議からはじまる。この日のテーマは年金。過去には節約術を紹介したが、どんな切り口でいくか。

気になっているのが、シニアの方が「推し」っていう言葉を使うのね。

ハガキに「推し」を応援して楽しいですとあった。

善なるものにお金を使っている満足感かしら。

そこに楽しみと消費する先を見出しているのでは。

より楽しくお金を使うという新たな切り口が見えてきた。だが、ここから山岡は一向に話を進めようとしない。「お金の使い方」に関心があるのか、まず調査をかけるという。ここに山岡が大切にする雑誌作りの根幹がある。「思い込みを捨てる」。

山岡は語る。

ここにいる誰も、シニアになったことがない。一度も60代、70代になったことがない中で、寄り添ったものを作るわけだから。ものすごく慎重に考える。60代って、こんな感じだよね。だって、うちのお母さん、こうだもんみたいな。そういうので作るのが一番、危ない。知っているつもりになりやすいと思います。膝が痛いでしょとか。腰が痛いでしょとか。固定概念が激しすぎる。

まずは読者800人を対象にしたアンケート調査をおこなう。どれが最も興味をひくタイトルか、聞いていく。下の3つは、過去に人気だった節約を意識したタイトルだ。

・年金生活を楽しく賢く暮らす節約アイデア

・年金生活のもしもに供える節約アイデア

・年金生活の五大不安をまるごと解消

そして、下が会議で出た「使い方」をテーマにしたタイトルだ。

・年金生活を賢く楽しむお金の使い方と守り方

編集部員が言う。

山岡さんが来てから、なんとなくこれがやりたいみたいなことが通用しなくなった。積極的に皆が調査するようになった感じですね。

一週間後、結果が出た。「お金の使い方と守り方」が半分以上の支持。節約というよりは、使いたいという結果だ。だが、調査はこれで終わらない。

テーマを掘り下げるため、次は読者以外の200人を対象とした調査。さらに読者座談会で具体的なエピソードを探る。関心が高かった内容はすぐに企画に反映させる。

一般的な月刊誌は3カ月で制作するが、山岡たちは調査だけで3カ月を費やし、さらに取材・執筆に3カ月、都合6か月をかけて作り込んでいく。

つづく