【本山葵 柳家わさび独演会】新年を寿ぐ余興と工夫を凝らした高座に、あふれるサービス精神を見た。
江戸東京博物館小ホールで「本山葵 柳家わさび独演会」を開きました。(2022・01・30)
柳家わさび師匠は熱い噺家である。お客様に喜んでもらうためには、どうしたらいいのか、を常に考えている。今回は、1月開催ということもあり、「新年を寿ぐ」会にしようということになった。ネタ出しは「松竹梅」と「佐々木政談」というおめでたい噺。しかも、「松竹梅」は本当に久々に演じる蔵出しだと言う。
実際、この「本山葵」をスタートするにあたって、三題噺の新作落語で有名なわさび師匠が、あえて「古典しばり」にして、本格的江戸落語を聴いていただこうというコンセプト設定をした。しかも、一席は一度ネタおろしはしたけれども、その後何かの理由で蔵にしまっておいた噺をあえて蔵出ししましょうということになった。自分に負荷をかけて、チャレンジする精神にあふれている。
また、今回は「新年を寿ぐ」のだから、オープニングで何か余興をやりましょうということになって、七福神のうち、大黒様に扮装して登場、オープニングアクト「福の神、現る」という時間を設けた。さらに、この時間はお客様が撮影することをOKにした。サービス精神豊かな、わさび師匠である。
オープニングアクト「福の神、現る」
大黒様に扮したわさび師匠が、金山はる社中の演奏する「秋田大黒舞」に乗って、登場。ちなみに、この「秋田大黒舞」は江戸曲独楽の三増紋之助師匠の出囃子だそうである。演奏が続く中、舞台上手、下手を何度も行き来して、お客様の撮影に応じる、わさび師匠は終始「ワッハッハ」と笑い続け、新年を寿いだ。ちなみに、わさび師匠の師匠である柳家さん生師匠は百面相を得意としていて、七福神というネタも持っているそうだ。それには到底及ばないから、レンタル衣裳で大黒様に扮装したというわけだ。
「やかん泥」春風亭貫いち
わさび師匠が扮装から着物に着替える時間を稼がなきゃいけないから、通常の前座の持ち時間よりも長く高座を勤めてほしいというリクエスト。寄席のトイレが全自動の最新式になっているというマクラを長く喋っていました(笑)。
「松竹梅」柳家わさび
楽屋の先輩師匠たちは、二ツ目時代は落語だけでは食べていけないから、結婚式の司会のアルバイトを沢山やって稼いでいたけど、最近はそういう需要も少なくなったようだ、と。ご自分が結婚式で落語を披露してくれと頼まれて失敗してしまったエピソードなども愉しい。松さんの「なった、なった、蛇になったぁ」が最後には「やんなったぁ」になってしまうところ、竹さんの小唄を習っているばっかりに、「何じゃになーられた、とな」と「とな」が付いてしまう癖、梅さんの「もんじゃになーられた」など可笑しかった。
「佐々木政談」柳家わさび
得意ネタだが、今回の高座に向けてさらに磨いてきた。お奉行さまを説明するところで、お裁きと言えばと現代のテレビのコメンテーターを引き合いに出し、さらにツイッターも普及して「一億総お裁き時代」と表現したのに、膝を打った。相変わらず、四郎吉は達者だが、とても可愛くて憎めないキャラクターがいい。
お白州の場面で、テレビ時代劇の固定されたイメージを風刺し、「遠山の金さん」を一番派手に演じた松方弘樹さんのお裁きをビデオを見て研究して、高座で披露したのには、拍手喝采。本当に熱い噺家、柳家わさび師匠である。