桃月庵白酒「代書屋」単なる言葉遊びではない客と主人のやりとり。そこに巧みな人物描写がある。

よみうり大手町ホールで「ザ・桃月庵白酒」を観ました。(2022・01・29)

「だくだく」「木乃伊取り」「代書屋」「宿屋の富」のたっぷり四席。最近、よく掛けている「代書屋」に注目した。

プログラムのインタビューで、こんな発言があった。

――以前お聞きした時に、ネタはたくさんお持ちで、ネタ卸しや掘り起こしを多くはされないということでしたが

白酒 ここ何年かは、やるネタを固めてはいます。いまやりたいネタをやっているという感じです。いくつかの都内の会を回っていただいているお客様は同じネタが多いと思われるかもしれませんし、ネットでは「ここで、これやったよ」とかの情報が回るので…。

新しいネタを広くかけていくことは必要なこともあるのでしょうが、義務感でやるのがどうかなあと私は思っています。

大変に興味深い。「代書屋」を今年に入って、3回聴いたが、飽きない。面白いのだ。白酒師匠の場合、人物描写が実に巧みなので、言葉のやりとりも面白いけれど、客と代書屋のやりとりの妙、特に表情や仕草などに抜群に可笑しいのだ。

履歴書を書いてほしいと代書屋を訪ねる男のキャラクターが、枝雀師匠や権太楼師匠とは明らかに違う。白酒師匠独自のキャラクターを形成している。それに付き合う代書屋さんのキャラクターもまた可笑しい。

「代書屋さんですか?」「どこだと思って入ってきたの?象使いとでも思ったの?」「もしかしたら、象使いかもしれない」

「レキシショをかいてもらいたい」「歴史書?ヘルドトスじゃない。履歴書でしょ」「ヘルドトス?」「歴史の父!」

「現住所は?」「ケンジュウは持っていないです」「拳銃所持じゃない!現在の住所!」

こうやって書くと、言葉遊びのように響くかもしれないけれど、それは違って、あくまでも客と代書屋とのやりとりの妙として、表情や仕草を含めて描いているから面白い。

生年月日を訊くときも、「うっすら」しか意味がわかっていない客に対して、代書屋は年齢を訊き、「25歳」と答える客。それは「親父が死んだとき」で、あれから20年経つことが判明すると、「45歳ね」。

それに追いうちをかけるように、「来年は46歳だからね」と代書屋が言うと、「来年のことがわかるんですか?」と驚く客が可笑しい。「じゃあ、オミクロンはどうなってます?」(笑)。

姓名を訊き出すやりとりも秀逸。「名前は?」「モリちゃん!」。モリちゃんを繰り返す客から、ようやく「盛夫」だということを引き出す代書屋もすごいが、その後の苗字がわからない。

「上につく名前があるでしょう?何の盛夫とか」に対し、客は「二度寝の盛夫!」と二つ名前で答えるのも可笑しい。「銀行で呼ばれるでしょう?何とかさーんって」「はい。38番さん!」。ようやく「小林」と突き止めると、「ハガキの宛名に書いてあるでしょ?」「いや、枕詞なのかなと思っていました」。

漫才の基本であるボケとツッコミ、これに近い形で噺を形成している上に、人物像が愛おしく描かれている。桃月庵白酒の「代書屋」は、やがて定番になるだろう。