【プロフェッショナル 楽天イーグルス・田中将大】大好きな野球だから、どんなことがあろうと戦い抜く(1)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 楽天イーグルス投手・田中将大スペシャル2021」を観ました。(2021・12・06放送)
マー君の愛称で親しまれる田中将大投手は2013年に史上初の無敗最多勝、224連勝という不滅の記録を残し、そして記憶を残した男だ。被災地にとっては「希望の星」。その男が震災から10年の今年、メジャーリーグから日本に復帰した。ところが…どん底を味わった。苦しみ続けた一年は無意味な月日だったのか。その舞台裏で何が起きていたのか。そして、苦闘の果てに見せた笑顔の意味とは?コロナ下の異例のシーズン、プロフェッショナル取材班が5回にわたる独占インタビューと徹底取材で迫る番組は心に沁みるものがあった。(以下、敬称略)
4月17日。田中は8年ぶりに日本のマウンドにあがった。2748日ぶりの登板。その3日前のこと、最初のインタビューで尋ねた。「このタイミングで帰って来て、プレッシャーはないですか?」。
田中が答える。
プレッシャーの無い仕事なんて無いですし、やってれば必ずそれは大きい小さいはあるにしても、やってる限り無いと駄目だと思う。
プレッシャーを力に、自分の力に変える。
そして、第一球。ストライク。最初のバッターを三振に仕留めた。だが、ホームランを浴びて、いきなり2失点。
2回。またホームランを浴び、5回3失点で負けた。注目の初戦、期待に応えられなかった。
田中は去年までバリバリのメジャーリーガーとして活躍してきた。世界一の名門、ヤンキースの主力として6年連続2桁勝利の偉業を達成。そして今年、日本一を目指し、古巣の楽天に復帰した。
チームメイトは皆、田中のことを「神」だという。しかし、その神がまさかの苦戦を強いられていた。5試合を投げて2勝3敗と思うような結果が出ない。
田中に何が起きているのか。
ある変化にいち早く気づいている人がいた。トレーナーの星洋介。アメリカに行く前から田中の体を見ていた。予想外の不振の原因は日本とアメリカの野球の違いにあると見ている。
田中投手の一番の武器は低めの制球。野村(克也)さんが言っていた「原点」というやつなんですけど。
原点。それは外角いっぱいに決まるストレートだ。田中を育てた一人、名将・野村監督が教えた伝家の宝刀だった。
野村さんは困ったら原点って言ってたんですよ。困ったら右バッターのアウトローに投げておけば大きな事故は起こらないし、バッターが一番打ちにくいボール。
だが、メジャーリーグに渡った田中は大きな壁にぶつかる。ヤンキースへ行って彼が気が付いたことは、「原点」は通用しないということ。
そう語るのは、元メジャーリーガーの斎藤隆だ。
メジャーにはあのゾーンが強いバッターが多いんです。手足が長くて、基本踏み込んでくるタイプのバッターが多いんですよね。
そこで田中が磨いたのが、変化球だった。鋭く曲がるスライダー。微妙に変化するツーシーム。そして、ストンと落ちるスプリット。7年間、変化球を磨き続けることで勝利を積み重ねてきた。しかし、その年月が田中の体を変えていたのだ。
星トレーナーは言う。
日本に戻って来て僕が気が付いたのは、体の硬い部分があるなとは思いましたね。
「原点」に威力のあるボールを投げるためには、ギリギリまでボールを持ち、低い位置でリリースしなければならない。そのためには、股関節や肩甲骨、そして足首の高い柔軟性が求められる。
だが、田中はその柔軟性が低下し、「原点」に思うように投げられなくなっていた。
つづく