【プロフェッショナル スタイリスト・大草直子】泣いて、笑って、おしゃれして(下)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 スタイリスト・大草直子」を観ました。(2021年11月16日放送)
きのうのつづき
8月中旬。大草は新たな挑戦の只中にいた。自らの資金だけで新しい雑誌を発行するという。出版社も広告も入れない、異例の雑誌。何にも縛られず、服のスタイリングから、編集、原稿まで全て自分で手掛ける。
大草は語る。
どうしても広告を入れて頂くと、使う言葉1つに関しても、当然リクエストが入ってくる。そこからもちょっと自由でいたい、みたいなところもあって。私たちが伝えたいことをもっともっと丁寧に深堀っていくような。
この日は冒頭特集の撮影だ。テーマは「清潔なセクシーを着る」。10年以上の付き合いになるモデルに依頼した。大草はモデルに、この特集の趣旨を説明する。「年齢を重ねると隠したい、隠したい、隠したいってなっちゃうんじゃなくて、今の自分の肌に自信を持ちましょうみたいな。強さというか、凛々しさがあると嬉しんです」。
大草はこの特集の最後のページに、テーマへの思いを綴るという。
自分の色、自分のカラー、自分のチャームをどうやって認めて出してあげるかということが、イコールその人のセクシーさみたいなものにつながっていくなっていうのをずっと思っていて、それをどうやって原稿に落としていこうかなって。
雑誌をゼロから作っていくのは、大草にとっても初めての試みだ。雑誌が売れない今、失敗に終わるリスクもある。しかし、SNSやウェブではなく、雑誌だからこそ伝えられるものがあると大草は考えた。
新しい雑誌の原稿を書き始めて一週間。大草が「清潔なセクシー」という特集の原稿を描き上げてきた。着ているブランドではなく、その人らしさ。歳を経て得られるしなやかさ。大草が考える美しい女性像が表現されていた。
だが、肝心の最後のページ。言葉が途中で終わっていた。ここだけ、もう一度考え直したいという。今回の雑誌で最も伝えたいことが、まだ言葉にならずにいた。
大草は長年、間違いは許さない、そんな生き方を自分に課してきた。だが、最近、その価値観が揺らぐ出来事があったと話し出した。娘を叱っていたときのことだ。
麻矢(娘)の頑なな自分の間違いを認めようとしないのが、すごく私に似てたの。私、こういう姿をずっと見せていたんだって。すごくショックだったんだよね。そのときに、それで、あぁ…とすごく思ったんだよな。自分で言っていることが麻矢に言っていることが、全部自分に言っていたの、なんか。あなたはいろんな人に許されてきてきているんだから、私は多分自分のことも許していないし、間違えちゃいけないと思うから、間違えた人のことも、もしかしたら許してなかったかもしれないなと思って。
だから、それを言ったら、あの子絶対に泣かないのね。泣くと認めることになるから。自分が悪いことを。目をすごい開いて、ぽろぽろぽろって泣いたの。お互いにすごい泣いて。で、そうかも。やっとなんか、自分のことも許せるようになったのかも。随分とそれから変わったんですよね。すっごく変わったとは思う。家の中での顔が一番変わったかな。
雑誌が校了した。
ずっと悩んでいた最後のページ。
そこには「自分を許し、包み込み、慈しむ」、そう綴られていた。「他の誰かになる必要」はない。自分を許し、ゆったりとしている様はとても清らかでセクシーです。
大草さんにとってプロフェッショナルとは?
最後まで自分を信じ切れる人。人の役に立っているかなとか、社会のためになるんだろうかとか、会社のためにいいのかなって、いうふうになるんですけど。それを最後まで信じ抜ける人、信じ切れる人がプロフェッショナルだと思います。
ありのままの自分でいい。いや、その自分がいい。
大草さん言葉がとても沁みました。ありがとうございます。