【プロフェッショナル スタイリスト・大草直子】泣いて、笑って、おしゃれして(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 スタイリスト・大草直子」を観ました。(2021年11月16日放送)

大人の女性たちから絶大な人気を誇るスタイリストが大草直子さん、49歳だ。おしゃれの救世主。おしゃれに悩む人にも真似しやすいコーディネートを提案し、着こなしのテクニックで定番の服もよみがえる。自らもモデルを務めることで、40代のリアルなイメージを発信し、雑誌の原稿も執筆、おしゃれのコツを伝えてきた。

「トレンドよりも、似合うが最強!大草直子の“考えるおしゃれ”」は10万部を超えるベストセラーになった。その独自のスタイルが支持され、10年以上にわたり、第一線で活躍し続ける。大谷さんにとっておしゃれとは、「自分が自分を好きでいられる、ひとつのツールなのかな」。ファッションコーディネートを通して、人の生き方をも考えさせられる番組だった。(以下、敬称略)

大草の事務所は南青山にある。6年前に会社を設立し、社員2人を雇う経営者でもある大草。雑誌でのコーディネートから商品開発まで、常に10件以上の案件を抱えている。

この日はアパレルブランドからの依頼。秋冬のコーディネートを撮影し、紹介する。大草自身が着て、着心地やイメージを伝える。

「体形もごく普通の50近い女性が着るとこうなりますっていうのを提示して、文章をつけて紹介しているんですけど」

真似しやすいリアルなおしゃれを発信し続け、女性の心を掴んできた。

今や、大草はおしゃれの駆け込み寺だ。この日は中高年向けブランドとの打合せ。客から寄せられた体形の悩みを大草がコーディネートで解決し、ウェブで紹介するという企画だ。

お腹周りが気になり、おしゃれが楽しめないという女性。同じ悩みを持つ店員をモデルに服を選ぶ。大草は悩みだけでなく、本人が好きだという部分に着目した。“好きなパーツは手首や足首が細いところ”。「隠すだけだとどうしても後ろ向きになっちゃうんですよね。いいところを生かしてあげれば、悪いところはそんなに目立たなくなってくる。それを大事にしたいな」。

絶対こういう方はシャツが似合うので、シャツというのはカフ(袖)だったり、前立てのこういうところだったり、直線が目立つお洋服なんですよね。

ポイント①シャツの直線で身体の丸みを隠す

ポイント②袖を折り、好きな手首を目立たせる

ポイント③パンツは好きな足首が見える丈に

ポイント④ゴムとタック入りのパンツで肉を逃がす

気になっているお腹周りをカバーしながら、その人らしい魅力を引き立てるスタイルに仕上げた。

おしゃれを生業にして25年。大切にしてきたことがある。

センスじゃない。

なんでおしゃれなんですか?と聞いたときに、私はセンスがいいからって言われちゃうと、もう取りつく島がない。上達する術がないとすごく思ってしまったんですね。やっぱり日々服を着ているわけだから、10年前の自分よりも絶対に上達していたい。願わくば10年後、死ぬときが一番おしゃれでいたい。だってそうじゃない。ずっと練習をしているわけですから。練習すればするだけ、絶対にうまくなりますから。でも、だから救いがありません?

一カ月半後、大草が提案した服は通常の3倍にまで売り上げを伸ばした。

9月。大草は6年前から携わっているウェブマガジンの打合せに臨んでいた。大草が悩み苦しんできたテーマを今回、記事にする。「おしゃれ更年期」。加齢や出産でそれまで着ていた服が似合わなくなることを大草はそう名付けた。

鏡で見ている印象を大体の人って、自分が28歳だってずっと思って見ている。清潔感が掌からほろほろと零れ落ちていくわけ。それを何とかしないといけないの、いろんなもので。だけど大丈夫、服があるからっていう。

歳を重ねれば顔も体も変わる。過去の姿に捉われず、移ろう自分を受け入れれば、またおしゃれは楽しめる。髪や肌に艶がなくなり、清潔感が失われた大人こそ、真珠の輝きが似合う。顔色がくすんで、黒い色が似合わないときには、中に白を入れれば見違える。

大草が語る。

女性がとにかく楽しく楽に生きられる方法。人と比べない。流行の物を持っていなくても落ち込む必要もない。年齢を重ねて服が似合わなくなっても、それで大丈夫。自分のフォルムとか、自分の素材みたいなことって変えられないけど、服っていうのは、それを包むラッピングなので、いくらでも変えられるし、自分の最適なラッピングを見つけて、鏡の中の自分を見たときに、「あ、裸の自分よりきれいだな」と思えるのは、自分自身の肯定にもつながる。戦わず。比べず、ですよ。

つづく