一龍斎貞寿「大江戸聖夜」サンタクロースが与えてくれるのは、幸せを掴むために努力する“希望”

晴れたら空に豆まいての配信で「シャクフシハナシ」を観ました。(2021・12・08)

一龍斎貞寿先生の「大江戸聖夜」(おおえどほーりーないと)が印象に残った。多分、貞寿先生の創作と思われるが、江戸を舞台にしながら、クリスマスをテーマにしている斬新さがとても良かった。

グリーンランドにいるサンタクロースは、ドイツの子どもが欲しがっている吉良邸の絵図面(笑)を求めるためにトナカイのルドルフに江戸へ行くように命じる。そこで出会った小さな女の子おみよは、母親を亡くし、火消しの父親は喧嘩が元で小伝馬町の牢屋敷に入れられているという。

人間に扮装しているルドルフは、クリスマスプレゼントに「お父さんに会わせてあげる」と約束するが…。戻ってきたルドルフにサンタクロースが言う台詞が印象的だ。「人間は妬んだり、怠けたりする生き物だ。そんなに簡単に自分の欲しいものが手に入ると思ったら大間違いだ。我々ができるのは努力して幸せをつかみ取る希望を与えることだ」。ルドルフはおみよとの約束が守れないことを告げに、再び江戸へ。

当時の江戸の制度で、火事が起きると、牢屋敷は「切り放ち」と言って、火事が収まったら戻ることを条件に、罪人を一旦全員解放したのだそうだ。これで戻って来なかったら、本人だけでなく家族も重い罪が課されるという仕組みになっていて、大半の罪人は戻ってきたそうである。

火事が起きて、おみよの父親の松蔵も解放された。おみよは自分の住むいろは長屋で父の戻りを待っている。そこへ、ルドルフがやってくる。父親は戻って来ないという。

火事は鎮まった。牢屋敷の罪人たちは戻ってくる。だが、松蔵は戻ってこない。やっぱり、松蔵は本当の悪党だったのか・・・。娘さえも見限ったのか。おみよとルドルフが諦めているところに、ようやく松蔵が現れた。

松蔵は火事の鎮火のために働いていたというのだ。それで、戻りが遅くなった。火消しには道具がいる。梯子、刺股、火叩き・・・。それらの七つ道具を大黒様が現れて、与えてくれたのだという。でっぷりと太って、背中に大きな袋を背負ったところは大黒様なんだが、赤い着物を着ていたと松蔵は言う。

ルドルフは思った。そうか、サンタクロースの親父さんは粋な真似をしてくれるじゃないか。

そして、お上から火事鎮火の働きが認められた松蔵は牢屋敷から完全に解放され、おみよと二人、父娘仲良くクリスマスを過ごすことができたという。

人間は妬んだり、怠けたりする生き物。幸せを掴むために努力する希望を持つことの大切さを教えてくれた素晴らしい一席だった。