【YEBISU亭】さん喬師匠の教え「演じすぎてはいけない」。それが落語と一人芝居の違うところ。

恵比寿ザ・ガーデンルームで「YEBISU亭」を観ました。(2021・12・07)

落語は三遊亭兼好師匠が「お見立て」、柳家三三師匠が「火事息子」を演じた。その間に挟まってのトークコーナー「今夜踊ろう」は真琴つばささんをスペシャルゲスト迎えたのだったが、実に興味深い内容だった。

真琴さんは言わずと知れた元宝塚歌劇団の月組トップスター。彼女が去年、「噺舞台 落語のラララ」という企画で、何と「死神」と「転宅」の2席も演じたのだ。弁財亭和泉師匠(当時は三遊亭粋歌)の助言で、柳家さん喬師匠に教わったのだそうだ。

ちょっと演ってみて!というリクエストに、「転宅」の旦那とお菊のやりとりを演じてみせたのだが、実にお見事。プロの噺家とはちがう意味で「役を演じる」ということを大切にされているのが伝わってきた。「でもね、八っつぁん、熊さんが出来ないんです。どうしても二枚目になってしまって」(笑)。

逆にさん喬師匠には、「役を演じすぎない方がいい」とアドバイスされたそうで、確かに舞台出身がゆえに感情を前面に押し出し過ぎて、お客様に言葉が入ってこないと自分でも意識して高座にあがったという。

三三師匠が「確かに我々は女性を演じるときも、あまり女性を意識しないで演じますものね」。そうか。落語と一人芝居の違いはそこにあるんだ!と感心した。真琴さんは「死神」と「転宅」の二席で「およそ十人を演じ分けたことになる」と言い、確かにそれを全部異なったキャラクターで演じていたら、聴いているお客さんも疲れてしまうかもしれない。

三三師匠が小三治師匠を、兼好師匠が好楽師匠を自分の師に選んだのは、「寄席で聴いていて居心地がいい」(三三師)「この人、楽しそう」(兼好師)。そこには、憧れがあったという。ああいう師匠のような噺家になりたいなあと入門したわけだが、結局は「この人のようにはなれない」という結論を出し、師匠の背中を見て、「自分の落語を演ればいい」と気づいたという。

それは宝塚にも言えて、真琴さんは「入団したころは、トップスターの背中を見て勉強しました」。特に何か指導されるわけでなく、「憧れの人」の舞台を観察して学んでいくというところは、落語界と同じかもしれない。三三師匠も面と向かって小三治師匠から稽古をつけられたことは一度もないという。

一挙手一投足を真似るのではなく、その師匠の素晴らしいところ、素敵なところのエッセンスを見て、自分の中で消化する。だから、弟子はどこか師匠に似ているが、クローン人間のようなそっくりな噺家になることはない。そこが伝統芸能としての落語の素晴らしさだと改めて痛感した。

最後に、「今年一番嬉しかったこと」をそれぞれが色紙に書いたのだけれど、三三師匠が「お客様の前で落語を喋れたこと」と書いたのがとても印象に残った。