【落語一之輔三昼夜】春風亭一之輔「うどんや」本寸法に上手い芸を見せてもらった
よみうり大手町ホールで「落語一之輔三昼夜」初日夜の部を観ました。(2021・11・15)
春風亭一之輔師匠のネタおろしは「うどんや」だった。いつもそうなんだけど、ネタおろしなのに、完成品に近い出来栄えに圧倒された。本人はそんな風には思っていないだろうけれど。
この噺の第一の眼目は婚礼帰りの酔っ払いだろう。その酔漢を一之輔師匠らしい味付けで演じていたのが印象に残った。世間を広く歩いていると言えば・・・仕立て屋の太平を知っているか?ではじまる、うどん屋への絡み。
普通、酔っ払いの絡みなんて迷惑なんだけど、この酔漢の場合はなんか憎めないんだよなあ。人情味があるというか。嫁に行くミー坊への愛情たっぷりに、さっきまでの婚礼の様子を喋る酔漢は愛すべきキャラクターなのかもしれない。
それを「さようでございますか」と聞くうどん屋も優しいのだが、この酔漢には「心がこもっていない」と叱られてしまう。うどんも食わずに、火に当たる酔漢の図々しさを許して、話を聞いてあげるだけで十分心優しいと思うんだけどなあ。
酔っ払っているから、話が繰り返しになる。うどん屋は話の勘所を覚えてしまったから、酔漢が言いたいのに、そこを先に言ってしまう。気持ち良く喋っているのだから、二度目でわかっていても、酔漢に喋らせればいいのに。だけど、うどん屋は悪くないと思う。誠意があって、酔漢に同調し、先に言ってしまったのだと思う。
うどん屋にも、酔漢にも人情があるのだね。これは、人情噺なのかもしれない。だから、酔漢がお冷を飲んだあとに、うどんを勧めても、これは人情というものだし、食べてやってもいいのにと思う。だけど、酔漢はうどんが嫌いときている。で、何も食べずに喋るだけ喋って、お冷を飲んで、そのまま帰ってしまう。あー、鍋焼きうどんの一杯くらい、食べてあげればいいのにと同情してしまうのだ。
そして、第二の眼目は、風邪っぴきの男が鍋焼きうどんを食べる様子だろう。一之輔師匠は実に丁寧に描いた。うどんをすするところは勿論、汁を飲むところ、蒲鉾をたべるところ、うどんが歯に挟まって取るところなど、きめ細やかな仕草が光った。
本当に目の前で食べているかのよう。観ているこちらまで、鍋焼きうどんが食べたくなる。お腹がグーッと鳴ってしまうほどだ。一之輔師匠の落語は漫画チックな表現が魅力だったりするが、この「うどんや」に限っては本寸法に演じて素晴らしいものがあると痛感した次第だ。